第2回 解雇手続を適切に終わらせる方法

皆さん、こんにちは。Poblacionです。今回取り上げるのは、フィリピン労働法に関連する重要なお話、解雇についてです。

フィリピン憲法の下では、全ての労働者に在職期間を確保できる権利が保証されており、恣意的に職を奪われることから守られています。こうした方針は、フィリピンの労働に関する指針や慣行の根幹に据えられています。例えば、雇用者が理由なく従業員を解雇することは、法律上認められません。従って、一度正規従業員の地位を得た従業員(広義的に、期間の限定なく雇用された者)を雇用者が解雇するのは非常に難しくなります。

そうは言っても、雇用者は能率の低い従業員や望ましくない従業員を永遠に雇用しなければならない、ということではありません。当然ながら、雇用者による従業員の解雇が有効となる方法はありますが、それにはまず、フィリピン労働法に規定された適正な手続を厳格に遵守する必要があります。それでは、かかる手続の要件について詳しくお話しましょう。

A. 実質面における適正な手続

雇用者は、従業員の顔が気に入らない、職務によりふさわしいと思われる新たな候補者がいる、といった理由で従業員を解雇することはできません。従業員の解雇を有効に行うためには、その解雇の理由が労働法に記載された理由のいずれか一つに該当しなければなりません。以下にその理由を列記します。

正当な理由、すなわち従業員側の理由

  • 従業員による重大な違法行為又は使用者の合法的命令の遵守における故意の拒絶
    軽微な違法行為だけでは従業員を解雇する正当な理由にはなりません。解雇の理由が正当と認められるには、従業員による違法行為が重大な性質のものであり、雇用者の下で働き続けるのに不適格であることが要求されます。解雇の正当な理由となる違法行為の例として、職場におけるセクハラ行為、会社施設内での喧嘩、上司に対する不適切な発言又は暴言等が含まれます。
  • 重大かつ常習的職務怠慢
    職務怠慢が一度だけ、又は単発的である場合は解雇の理由にはなりません。解雇には怠慢が重大かつ常習的であることが要求されます。例えば、15分の遅刻が一度あっただけでは、「重大」とも「常習的」とも言えず、解雇の正当な理由とはなりませんが、常習的に遅刻する従業員が正式な許可も受けずにその後さらに一ヶ月近く欠勤した場合には、重大かつ常習的職務怠慢とみなされ、解雇の正当な理由となるでしょう。
  • 従業員による詐欺、又は雇用者/正当な授権代表者から寄せられた信頼に対する故意の背任行為
    解雇対象者が、信用、信頼される地位の者であることが要件です。これには、管理職レベルの従業員や、現金出納係、監査役及び財産管理人等、会社の資金や財産を日常的に取り扱う者が含まれます。例えば、会計担当者が、会社の資金を不正に使用したり、会社の財務記録に故意に誤記入したりした場合、詐欺又は故意による背任行為を理由として、有効に解雇することができます。
  • 雇用者(又はその家族もしくは正式な授権代表者)に対する犯罪行為
  • 上記に類するその他理由

認められる理由、すなわち雇用者側の理由

  • 省力装置/オートメーション制度の導入
  • 人材余剰
    余剰とは、職務が重複することを意味します。余剰が解雇の理由として認められるためには、重複している職掌の存在が適切に証明されなければなりません。雇用者は、重複している職掌及び解雇する従業員を決定する際に、公正かつ合理的な基準以って決定したことも証明しなければなりません。
  • 重大な事業損失回避のための縮小
    解雇を有効とするためには、損失の回避に縮小又は削減が必要であることが、会社の監査済み財務諸表等の証拠によって証明されなければなりません。また、想定される損失が単なる表面的なものではなく実質的なものであり、現実的にあるいは合理的に切迫したものであることが要求されます。
  • 事業の閉鎖又は停止
  • 疾病
    従業員に疾病があり継続雇用が法律により禁止されている場合、あるいは本人又は同僚の健康を損なう場合、雇用者による従業員の解雇は有効となります。疾病の証拠として、適切な治療を施しても6ヶ月以内には治癒できない旨が記載された医師による適格な証明書が必要です。

B. 手続面における適正な手続

①雇用者が、会社の財産を盗む従業員を現行犯で捕まえた場合、その場で当該従業員を即時解雇できるでしょうか?いいえ、できません。フィリピン法上、正当な理由、すなわち従業員側の理由に基づき解雇する場合、雇用者はまず、以下のことを行わなければなりません。

解雇の理由を明記した書面を従業員に送付し、従業員に自己の立場を説明できる合理的機会を与えること

聴取又は面談を実施し、従業員が嫌疑に対して釈明し、自らの証拠を提示したり、自らに対して提示された証拠に反論したりする機会を与えること(本人の希望があれば、弁護士による補佐を容認)

あらゆる状況を適切に判断した結果、解雇の正当な理由があると立証された旨記載した解雇通知書を従業員に送付すること

②雇用者が、事業活動の継続を断念すると決定した場合、従業員に対して、単に明日から仕事に来なくてよいと告げることはできるのでしょうか?いいえ、できません。フィリピン法上、認められる理由、すなわち雇用者側の理由に基づき解雇する場合、雇用者はまず、以下のことを行わなければなりません。

解雇日の1ヶ月前までに、従業員と雇用労働省の両方に書面で通知すること

従業員に退職手当を支給すること。省力装置の導入又は人材余剰により解雇される従業員には、1ヶ月分の給与×就業年数以上の退職手当の支給を受ける権利があります。解雇理由が、重大な事業損失ではなく事業の縮小又は閉鎖である場合、退職手当の金額は、1ヶ月分の給与、又は1/2ヶ月の給与×就業年数のうち、いずれか高い方に相当する金額以上となります。重大な事業損失による会社の閉鎖を理由に解雇する場合、退職手当の支給義務はありません。
なお、従業員が疾病を理由に解雇される場合、雇用者には、1ヶ月分の給与、又は1/2ヶ月の給与×就業年数のうち、いずれか高い方に相当する金額以上の退職手当を支給する義務があります。

C. 解雇に伴う義務を遵守しなかった場合にもたらされる結果

雇用者が、解雇する従業員について、実質面における適正な手続に従わなかった場合(すなわち、正当な理由なく、あるいは不十分な理由で従業員を解雇した場合)、その解雇行為は違法となり、従業員には以下の権利が与えられます。

復職
勤続年数による権利及びその他特権の喪失を伴わない復職。職位が既に廃止されている等、復職がもはや不可能な場合には、復職に代えて退職手当を支給することもできます。退職手当の金額に関する規定は労働法にはありませんが、裁判所及び労働審判廷では通常、1ヶ月分の給与×就業年数に相当する金額で算出されます。

未払い賃金全額の支給
報酬の支給停止時から実際の復職時までの期間について計算した手当及びその他給付金を含む未払い賃金全額の支給が受けられます。労働関係訴訟が控訴段階で最終的に結審されるまでには何年もかかる場合がありますので、未払い賃金全額に関する雇用者の潜在的責任額は、累積でかなりの高額となる可能性もあることにご留意ください。

なお、正当な理由で解雇する従業員について、雇用者が手続面における適正な手続に従わなかった場合の解雇は有効です。但し雇用者は、名目的損害賠償金を支払う義務を負うことになります。その金額は状況により様々ですが、裁判所及び労働審判廷が名目的損害賠償金として支払を命じる金額は、通常Php30,000(約81万円)からPhp50,000(約13万5千円)です。


*本記事は、フィリピン法務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。フィリピン法務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は当事務所にご相談下さい。