第41回 待ちに待った包括的な競争法の制定

皆さん、こんにちは。Poblacionです。国会で長期にわたり懸案となっていた法案の一つが、ようやく法律になりました。20年以上にわたり立法府において留まっていた包括的な競争法が、とうとうフィリピンで制定されたのです!

共和国法第10667号、いわゆる「フィリピン競争法」(PCA)は、2015年7月21日に大統領によって署名されました。しかし、PCAは、フィリピンで自由競争を促進する初めての法律というわけではありません。実際、フィリピンには、各種業界特有の法律の中にそれぞれ盛り込まれた競争規則が数多く存在しています。例えば、電力石油業界、医薬品業界、消費財業界及び必需品業界のそれぞれに適用される反トラスト規則があります。フィリピンの刑法や民法も、全般的に不正競争を罰則の対象としています。ただ、これらの法律が執行されたことは殆どありません(おそらく、執行の方法に関する具体的な指針がないことが、その理由だと思われます)。これに対してPCAは、大きな変革をもたらすものと多くの人が考えています。なぜなら、市場競争の領域及び側面を全面的にカバーするフィリピンで最初の法律だからです。PCAは、競争を阻害するとみなされる行為を定義し、こうした違法行為を行う事業体の訴追方法に関する仕組みを提供し、違反者に厳格な罰則を課すことにより、既存の競争規則に実効性を持たせる法律でもあります。

PCAの特筆すべき特徴は以下の通りです。

適用範囲

PCAは、フィリピンで取引や商売を行なう全ての人又は企業に適用されます。海外で行われた行為であっても、合理的に予測可能で重大な影響をフィリピンに直接及ぼすものであればPCAの適用対象となります。

フィリピン競争委員会の創設

PCAに関して注目すべき点の1つは、フィリピン競争委員会(PCC)が創設されたことです。PCCは、5名で構成される組織で、競争に関する国の政策を実施し、PCAの規定を執行する役割を担っています。PCCには、その役割を果たすための様々な権限が与えられています。例えばPCCには、PCAを始めとする既存の競争法に違反する行為について事件を調査、審理し、判断を下す権限があります。行政罰を科したり、裁判所に適切に刑事手続又は民事手続を提起したりすることもできます。PCCは、合併計画の審査も行い、取引によって競争が阻害されるような影響がもたらされないことを確保します。

禁止される行為

PCAでは、以下の2種類の行為が禁止されています。

    1. 競争を阻害する契約の締結
    2. 優越的地位の濫用
1. 競争を阻害する契約

競合する複数の企業が、価格競争の制限、談合及び入札価格の操作に関する契約(正式なものか否か、書面又は口頭のいずれによるかを問わない)を締結することは、常に禁止されています。また、互いに競合する企業は、市場競争を実質的に阻害、制限又は減殺する目的又は効果を有する契約を締結することもできません。

2. 優越的地位の濫用

PCCは、ある企業が市場支配的地位を有するかどうかの判断において、様々な要素(マーケットシェア、競合他社の存在等)を考慮します。ただし、ある企業のマーケットシェアが50%を超える場合、法律上その企業は市場支配的地位を有している、と推定されます。

PCAは、市場支配的地位を有すること自体が禁止行為ではないことを明確にしています。例えば、高品質の靴を販売する企業が、消費者の80%から選ばれるブランドであるからといって、自動的にPCA違反とみなされることはありません。PCAが禁止しているのは、市場競争を実質的に阻害、制限又は減殺する行為による市場支配的地位の濫用です。禁止されている行為の例を、以下にいくつか挙げます。

  • 「略奪的価格設定」、すなわち、競争を排除するために原価以下で販売すること。
  • 「抱き合わせ」、すなわち、本来の取引とは無関係の義務を受け入れることを条件として取引すること。たとえば、製品Aの購入を希望する顧客に、製品Aとは互いに関係のない製品Bも購入するように要求すること。
  • 不合理に差別的な価格や販売条件を設定すること。
  • 商品又はサービスの販売や取引に関し、販売場所、販売先又は販売方法を制限すること。
3. 罰則

競争を阻害する契約を締結したり、市場支配的地位を濫用した企業は、初犯であれば1億ペソ以下の過料、再犯の場合には1億ペソ以上2億5千万ペソ以下の過料に処されます。また、PCCには差止命令を発行して、株式の処分を要求し、不当利益の返還を命令する権限もあります。

競争阻害行為を犯す企業に対しては、不利益を被った企業が別途民事訴訟を提起することもできます。ただし、民事訴訟を提起できるのは、違反と疑われる行為についてPCCが事実関係を認定する予備的調査を実施した後になります。

競争を阻害する契約を締結した場合、行政上及び民事上の制裁対象となるばかりでなく、刑法上の犯罪行為として、2年以上7年以下の懲役及び5千万ペソ以上2億5千万ペソ以下の罰金も科されます。

合併・買収に関する審査

企業からPCCに対し、計画されている合併又は買収について審査し、その取引が競争を阻害する影響をもたらすかどうか判断するよう要求することもできます。ただし、取引の価額が10億ペソを超える場合には、強制的に審査が実施されます。合併又は買収の当事者らは、取引の計画についてPCCに通知し、合併又は買収の完了前の30日(最長90日まで延長可)の間に、その取引についてPCCが評価できるようにしなければなりません。

PCCによる決定が出ないまま審査期間が満了した場合、その取引は承認されたものとみなされ、当事者らはその取引の実施を進めることができます。一方、取引が競争を阻害するものであるとPCCに判断された場合には、契約の遂行は禁止されることになります。ただし、以下の場合には免責を申請することもできます。

  1. その取引により、大幅な効率性の向上がもたらされる場合
  2. 当事者の一方が財政破綻に直面しており、計画されている取引が、その当事者が選択し得る方法の中でもっとも競争阻害性の低い取引である場合

なお、通知義務の規則に違反した合併又は買収は無効とみなされ、当事者らには取引の価額の1%から5%に相当する罰金が科されます。

PCAは、まさに待ち望まれた法律です。PCAにより、すべての事業に対し、その規模にかかわらず、市場に参入し自由で健全な競争の中で活動する機会が平等に与えられることになり、フィリピン経済にも多大な利益がもたらされると期待されています。さらに重要なこととして、PCAが最終的に目指しているのは、製品の価格を下げて選択肢を増やすことにより、消費者に利益をもたらすことです。これからは、我々がPCAの恩恵を受けられるようになるのを待ちましょう。

なお、PCAについて詳しく知りたい方は、こちらで法律の全文を読むことができますのでご参照下さい。


*本記事は、フィリピン法務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。フィリピン法務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は当事務所にご相談下さい。