第4回 人員削減(リストラ)(4)~人員削減の手続~

Q:上海市所在の独資企業X社(登録資本金500万米ドル、社内に労働組合あり)は、これまで自社工場において製品を製造し販売してきましたが、思うように利益が上がらないことから、製造よりも販売に力を入れる経営方針に転換し、製造についてはできる限り外部に委託することを考えています。当該方針転換に伴い、主として製造部門の従業員の人員削減を検討しています。
人員削減の実施にあたっては、どのような手続を行う必要があるでしょうか?また、仮に手続を行わなかった場合、どのようなペナルティを受けることになるでしょうか?

A:X社は、人員削減の実施にあたっては、ⅰ内部の手続として、30日前までに労働組合に対して状況を説明し、その意見を聴取すること、ⅱ外部への届出手続として、人員削減計画を所在する区又は県レベルの労働行政部門に届け出ることが必要です。
また、上記ⅰ又はⅱの手続を行わず人員削減を行った場合、違法な労働契約の解除となり、X社は、労働行政部門から人員削減の停止及び是正を命じられる可能性があるほか、労働者が労働契約の履行を継続するよう求めたときは、履行を継続し、労働者が労働契約の履行継続を求めず、又は労働契約の履行が既に不可能となったときは、法定の2倍の経済補償金を賠償金として支払わなければなりません。

解説

1 人員削減(リストラ)の手続
 労働契約法(以下「本法」といいます)第41条では、人員削減の法定事由や優先的に雇用を継続しなければならない者などのほかに、人員削減の手続について、以下の手続を規定しています。

 30日前までに労働組合又は全従業員に対して状況を説明し、労働組合又は従業員の意見を聴取する。
 人員削減計画を労働行政部門に届け出る。

 上記のうち、ⅰは内部での手続、ⅱは外部への届出手続と区分することができます。以下ではこれらの手続について概説します。

(1)ⅰ 内部での手続
 全国的に適用される「企業の経済的理由による人員削減規定」(以下「人員削減規定」といいます)第4条第1号~第3号、及びX社の所在地であり上海市で適用される地方法規である「使用者による法に基づいた人員削減実施報告についての通知」(以下「上海市人員削減通知」といいます)第2条第3号に基づきますと、具体的には次の手続を行うべきことになります。

①30日前までに労働組合又は全従業員に対して状況を説明し、かつ、生産経営状況に関する資料を提出する。

②人員削減案を作成する。
その内容には、人員削減人数、人員削減人数が労働者全体の人数に占める割合、削減対象者名簿(姓名、身分証、労働契約期限を記載する)、削減時期及び実施手順、法律、法規の規定及び労働協約の約定に適合する削減対象者に対する経済的補償方法、経済補償金の準備状況、並びに企業が救助措置を採るか否かの状況説明等を含む。

③人員削減案について労働組合又は全従業員の意見を求め、かつ、当該案を修正し、完全化する。

 なお、上記①又は③に関し、仮に企業内に労働組合が存在する場合、必ず労働組合に対して状況説明、及び意見聴取を行わなければならないかについて、上海市のある区の労働行政部門に電話にてヒアリングを行ったところ、「企業内に労働組合が存在する場合には、労働組合に状況説明を行わなければならない。労働組合は従業員を代表して、従業員大会を開催し、従業員に状況説明を行い、意見を聴取し、その後に労働組合から企業に対して意見をフィードバックし、企業と協議を行う。このような方法を採らなければならないのは、企業にとっての便宜だけでなく、企業が労働行政部門に人員削減を報告する際に提出する『企業人員削減状況報告表』に労働組合の押印が必要であるからである」旨の回答がありました。

(2)ⅱ 外部への届出手続
 まず、人員削減規定第4条第4号に基づきますと、具体的には次の手続を行うべきことになります。

  • 現地の労働行政部門に人員削減案、及び労働組合又は全従業員の意見を報告し、かつ、労働行政部門の意見を聴取する。

また、労働行政部門への報告時には以下の資料を提出しなければなりません(上海市人員削減通知第2条)。

①「企業営業許可証(副本)」及び「労働組合法人資格証書」の写し
労働組合代表又は従業員代表の個人資料
企業が制定した書面の人員削減案
企業による労働組合又は従業員側への状況説明、意見聴取の資料

 なお、報告先となる具体的な労働行政部門について、上海市では、1000万米ドル(又はそれ相当)を超える登録資本金の外商独資企業は、市レベルの労働行政部門(市人力資源及び社会保障局)が受理し[6]、それ以外の外商投資企業は、区・県レベルの労働行政部門が受理することとされています(上海市人員削減通知第1条)。

(3)上記ⅰ又はⅱの手続を行わなかった場合
 上記ⅰ又はⅱの手続を行わなかった場合、違法な労働契約の解除となります。
 この場合について、まず人員削減規定第8条では、労働行政部門が法により人員削減の停止及び是正を命じなければならないと規定されています。

また、本法に基づき使用者は以下のいずれかの対応を行わなければなりません(本法第48条、第87条)。①労働者が労働契約の履行を継続するよう求めた場合、履行を継続する。
②労働者が労働契約の履行継続を求めず、又は労働契約の履行が既に不可能となった場合、法定の2倍の経済補償金を賠償金として支払わなければならない。

 なお、実際の裁判例においても、ⅰ又はⅱの手続を行わなかったことにより、労働契約が違法とされ、上記賠償金の支払いが命じられたものがあります。

2 本件
 上記のとおり、X社は、内部の手続及び外部への届出手続を行うべきことになりますが、まず、X社には社内の労働組合がありますので、ⅰ内部の手続としては、30日前までに労働組合に対して状況を説明し、その意見を聴取すべきことになります。その際、生産経営状況に関する資料や人員削減案を準備しなければなりません。
 次に、X社は、ⅱ外部への届出手続として、人員削減計画を労働行政部門に届け出なければなりません。この点については、登録資本金500万米ドルである(1000万米ドルを超えない)X社は、所在する区又は県の労働行政部門に届出を行うことになります。また、届出を行う際には、上海市で規定される各資料(①「企業営業許可証(副本)」及び「労働組合法人資格証書」 の写し、②労働組合代表又は従業員代表の個人資料、③     企業が制定した書面の人員削減案及び④企業による労働組合又は従業員側への状況説明、意見聴取の資料)を提出する必要があります。

また、仮にX社が上記ⅰ又はⅱの手続を行わなかった場合、違法な労働契約の解除となり、労働行政部門から人員削減の停止及び是正を命じられる可能性があるほか、本法第48条、第87条に基づき、労働者が労働契約の履行を継続するよう求めたときは、履行を継続し、労働者が労働契約の履行継続を求めず、又は労働契約の履行が既に不可能となったときは、法定の2倍の経済補償金を賠償金として支払わなければなりません。


*本記事は、一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は当事務所にご相談ください。

*本記事は、Mizuho China Weekly News(第750号)に寄稿した記事です。