第42回 会社の設立(外商投資企業の設立手続)

Q:中国市場への販路拡大のために、中国において会社の設立を検討しています。2020年1月1日から外商投資法が施行されていますが、会社の設立にどのような影響があるのでしょうか?

A:ネガティブリストの制限項目の分野に該当しない外商投資企業については、従来要求されていた商務部門への許認可又は届出が不要となり、市場監督管理部門への設立登記と商務部門への外商投資情報の初期報告の手続で足りるようになりました。

解説

1 概説
 2020年1月1日から施行されている外商投資法によって、中国企業の設立手続との統一化が進み、外商投資企業の設立手続にも大きな影響があっため、今回は外商投資企業の設立手続について説明していきます。

設立手続は個別の状況により異なるため、今回はネガティブリストの制限項目の分野に該当しない外商投資企業の設立手続について、主に上海市での設立手続を参考に説明していきます。また、中国における日系企業の多くが有限責任会社の形態であるため、有限責任会社の設立手続について説明していきます。

2 外商投資企業の設立手続の変化
 2020年1月1日から、外商投資情報報告弁法による外商投資情報報告制度が施行されています(外商投資法実施条例第38条、第39条)。従来、外商投資企業を管理する目的から、外商投資企業の設立に際して商務部門による許認可又は届出が要求されていましたが、ネガティブリストの制限項目の分野に該当しない外商投資企業についてはこれが要求されず、市場監督管理部門への設立登記商務部門への外商投資情報の初期報告の手続で足りるようになりました。

なお、中国企業であっても主管行政部門の許認可が必要とされている特定の業界では、外商投資企業もその手続が必要となる点は従来と変わりありません(外商投資法第30条)。例えば、薬品生産監督管理弁法が規定する医薬品業界の参入許可等です。

3 外商投資企業の設立登記
(1)設立登記の概要
 設立登記は、設立される企業の基本情報を主管部門である市場監督管理部門に記録、登記させる手続です。

ネガティブリストの制限項目の分野に該当しない外商投資企業の設立登記は、中国企業と同様に手続が行われ、企業登記システムを通じて登記申請を行い、市場監督管理部門により審査が行われます。従来は商務部門の許認可がすでに得られている場合、設立登記については形式的な審査に留まっていました。しかし、既に許認可及び届出制度が廃止された現在の実務では、設立登記について市場監督管理部門が形式的な審査ではなく実質的な審査を行い、提出書類の修正や追加書類の提出を要求するケースが増えています。

もっとも、設立登記の手続自体は非常に効率化されています。上海市では上海市人民政府が「一窓通」という会社設立プラットフォームを運営し様々な設立手続が一括で行えるようになっており、システムに入力した関連情報に基づいて、定型的な必要書類が自動的に作成されるようになっています。

(2)提出書類
 有限責任会社の設立を申請する場合は、登記機関に以下の文書を提出しなければなりません(会社登記管理条例第20条第2項各号参照)。これらの文書が中国語ではない場合、翻訳会社の社印を押した中国語の翻訳文の提出も必要となります。提出書類も個別の状況に応じて異なるため、以下は参考情報として記載します。

ア 会社登記(届出)申請書
 会社登記(届出)申請書は、会社の株主全員、予定法定代表者が署名して提出しなければなりません(会社登記管理条例第20条第2項第1号)。
 有限責任会社を設立する場合、株主全員が指定する代表者又は共同で委託する代理人により登記機関に設立登記を申請しなければならない(会社登記管理条例第20条第1項)ため、申請書には株主全員による委託について記入します。

イ 市場主体名称自主申告信用承諾書及び名称自主申告仮留保通知書
 従来は会社を設立する場合に、企業名称について事前審査が必要とされていましたが、2019年2月より、企業名称自主申告制度に変更され、事前審査が不要になりました(行政許可事項の取消及び委託に関する国務院の決定第24条)。企業登記システムに企業名称の情報を入力することにより、市場主体名称自主申告信用承諾書及び名称自主申告仮留保通知書が自動的に作成され、それを提出します。
また、企業名称を自主申告する際には、以下のような企業名称登記管理規定を順守することに加えて、企業名称禁限用規則、企業名称同一類似比較規則も順守しなければなりません。
名称は以下の4つの構成部分を含まなければなりません(企業名称登記管理規定第7条第1項、第2項)。

(名称の4つの構成部分)
①所在地行政区画名+②屋号(又は商号)+③業界又は経営の特徴+④組織形式

しかし、外商投資企業の場合は、国家工商行政管理総局の審査確認により、①所在地行政区画名を冠しないことができます(同条第3項第3号)。
また、名称には中国の漢字(簡体字)を用いなければなりません(同規定第8条第1項)。

ウ 定款
 定款とは、会社、株主、会社の経営管理者に対して拘束力を有する会社内部の組織と経営を調整するための自治規則をいいます。
従来は、企業自らが定款を作成して提出していましたが、現在の実務では、企業登記システムに必要情報(会社名称、住所、登録資本、経営範囲、法定代表者、董事や監事及びその人数等)を入力すると、定款の所定フォームが自動的に作成され、これをダウンロードして、株主又はその授権者が署名、押印(会社法第25条第2項)した上で、市場監督管理局へ提出することが通常です。所定フォームを使えば、市場監督管理局での審査時間を確実に短縮できる点でメリットがあり、当局も基本的に所定フォームをそのまま利用することを推奨しています。

しかしながら、定款の所定フォームにはごく一般的な内容しか記載されていないため、例えば、中外合弁企業を設立し、定款に董事会の権限等に関する細かい規定を盛り込もうとすると、定款の所定フォームを修正する必要が出てきます。企業が個別の状況に応じて修正したい場合、会社法の強行規定に違反しない範囲内での修正が可能と考えられますが、市場監督管理局に対して所定フォームを修正する必要性や内容の合理性を説明する必要があるため、窓口での交渉が必要となります。更に地方によっては、市場監督管理局が所定フォームに修正を加えることを認めないケースもあるのが現状です。

エ 株主の主体資格証明書又は自然人の身分証明書
 外国投資者の主体資格証明書又は身分証明書は、所在国の主管機関の公証・認証を経て、所在国の中国大使館に提出して認証を受ける必要があります(「外商投資法」の実施の徹底、外商投資企業登記登録業務の適切な処理に関する通知第5条)。日本の会社が株主になる場合は、主体資格証明書として現在事項全部証明書の中国語訳を提出することになります。

実務上、市場監督管理局は、直近半年以内に公証・認証したものに限り効力を認めています。

オ 法定代表者、董事、監事、総経理の就任文書及び身分証明書(外国人の場合はパスポート)の写し、各担当者(連絡、財務、税務、印鑑、発票)の身分証明書の写し
 法定代表者については、定款の規定に従い、董事長、執行董事又は総経理が就任します(会社法第13条)。董事、監事については、従来の「三資企業法」が廃止されたため出資者が任命することができず、株主会で選出しなければなりません(会社法第37条第1項第2号)。総経理については、董事会で招聘しなければなりません(会社法第46条第9号)。

また、連絡担当者については、下記の対応が必要となるため、中国人を手続の代理人又は連絡担当者とすることが重要です。

例えば、国家市場監督管理総局の企業登記システムでは、中国人の代理人により登記手続を行う必要があります。また、上海市市場監督管理局の企業登記システムでは、申請を行う前に、まず「実名認証」(中国人の顔認証、音声認証、身分証明書認証)手続を行う必要がありますが、中国人でない場合、これが許可されないために登記手続が難航します。さらに、登記手続においては、市場監督管理局の窓口として連絡担当者の個人情報(氏名、電話番号、電子メール、身分証明書番号)及び身分証明書の写しを届出なければなりません。

カ 住所の合法使用証明書
 住所の合法使用証明とは、会社がその住所を合法的に使用できることを証明する文書をいいます(会社登記管理条例第24条)。例えば、賃貸借契約書や建物所有権証書等です。会社の住所は主要な事務機構の所在地となります(会社法第10条)。

実務上、市場監督管理局により、住所の所在地の不動産取引センターが発行する取得不動産登記簿の提出を求められることもあります。
さらに、各地の規定などにより、企業の住所に対する優遇政策があるため、事前に確認することが重要です。例えば、上海市では、上海市企業住所登記管理規定に基づき、集中登記(多数の企業が指定された集中登記住所を利用する。同規定第7条)、一つの住所における多数の会社登記(中国語でいわゆる「一址多照」。同規定第8条)等について優遇政策があります。

キ 事前承認証明書又は許可証明書
 法律、行政法規、国務院決定の規定により承認の必要がある場合、又は経営範囲 について承認の必要がある項目を申請する場合(会社登記管理条例第22条)、事前承認証明書又は許可証明書の写しを提出する必要があります。

(3)会社の成立とその後の手続
 設立登記により登記機関から営業許可証が発行され、その発行日に会社が成立します(中国会社法第7条、会社登記管理条例第25条)。設立登記を経て、営業許可証を受領することで、はじめて会社は法人格を取得し自己の名義で経営活動を行うことができます。登記をしなければ会社の名義で経営活動を行うことはできません(会社登記管理条例第3条第1項、第2項)。
 また、会社の登記及び届出情報は企業信用情報公示システムを通じて社会に公示されます(同条例第55条)。

その後、会社は営業許可証に基づき、会社の各種印鑑を作り、銀行口座を開設し、税務登記等の手続をしていきます(同条例第25条参照)。印鑑については、公安局により指定された業者の中から選んで作成しますが、作成を担当できるのは一窓通「作成担当者」として登録した中国人のみです。
 近年の登記制度の改革により、営業許可証には統一社会信用コードが記載されており、これにより税務登記、社会保険登記、銀行口座開設登記、税関登記等について一括で手続ができるようになっています。

しかし、企業登記システムで設立登記手続を行う際に、設立する会社の税務登記の関連情報(財務制度や発票受領担当者、財務担当者、税務担当者の個人情報等)、税関登記の関連情報(税関担当者の個人情報等)を入力しなければならないため、設立登記手続の段階で、このような登記関連の情報を確定する必要があります。

4 外商投資情報の初期報告 
 外国投資者が中国国内で外商投資企業を設立するとき、又は中国国内の企業を買収し買収された企業の変更手続をするときは、企業登記システムを通じて、以下の事項について初期報告を提出しなければなりません(外商投資情報報告弁法第9条、第10条)。

①外商投資企業の基本情報
②投資者及びその実質的支配者の情報(資金の出処、実質的支配者の支配方式等を含む)
③投資取引情報等(買収された企業の状況や、戦略投資取引の状況等を含む)

 初期報告と設立登記との関係ですが、外商投資情報の初期報告の提出は設立登記の必要条件ではなく、登記機関は外商投資情報の初期報告について審査はしないものとされており、設立登記申請後に引き続き外商投資情報の初期報告を入力することもできます(「外商投資法」の実施の徹底、外商投資企業登記登録業務の適切な処理に関する通知第3条)。


*本記事は、一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は当事務所にご相談ください。

*本記事は、Mizuho China Weekly News(第856号)に寄稿した記事です。