第43回 会社の設立(出資手続)

Q:日本企業X社は、中国において、中国企業Y社と合弁会社Z社を設立しました。出資方式について定款で定める際、基本的に金銭によって出資することを定めましたが、Y社は土地使用権を、X社は知的財産権を出資することも定めました。このような出資方式を定めることは中国の法律に照らして可能でしょうか。また、Y社が出資する土地使用権はZ社の工場を新しく建設するために重要ですが、Y社は土地の引き渡しや権利移転手続をしてくれません。どのように対応すればよいでしょうか?

A:金銭のみならず、土地使用権、知的財産権等の金銭以外の財産を出資方式とすることが可能です。また、Y社が土地使用権の出資を履行しない場合には、X社及びZ社はY社に対して、その土地の引き渡しや権利移転手続を請求することができます。

解説

1 総論
 出資は、会社設立の必要条件の1つであり、会社の資本基盤を確立するために非常に重要な事項です。定款においても、会社の登録資本金出資額出資時期、出資方式を明記しなければなりません(中国会社法[1]第25条第1項)。

そこで今回は、出資に関する重要事項として、登録資本金、出資時期、出資方式、出資の履行について、中国において日系企業の多くが採用している有限責任会社の場合を例に説明していきます。

2 登録資本金
(1)登録資本金とは
 有限責任会社における登録資本金とは、会社登記機関に登記された全出資者が引き受けた出資額を指します(中国会社法第26条第1項)。

(2)最低登録資本金
 従前は、外商投資企業に対して最低登録資本金の規制がありましたが、現在では、法律、行政法規及び国務院の決定が最低登録資本金を規定(中国会社法第26条第2項)している特定の産業を除いて、外商投資企業の最低登録資本金の規制はありません(外資審査管理業務の改善についての通知第1条第2項)。

最低登録資本金の規制がある特定の産業については、例えば、商業銀行法第13条第1項によれば、全国レベルの商業銀行の最低登録資本金は10億人民元、市レベルの商業銀行の最低登録資本金は1億人民元、農村レベルの商業銀行の最低登録資本金は5000万人民元と規定されています。他にも、外資銀行、金融資産管理会社等が規制対象になっています。

(3)登録資本金と投資総額の比率
 登録資本金と関連して、投資総額という概念があります。投資総額とは、中国への投資プロジェクトに設定される投資可能な額の上限をいい、外商投資企業特有の概念です。
従前は、外商投資企業に対して、登録資本金と投資総額の比率に関する規定(中外合資経営企業の登録資本金と投資総額の比率に関する暫定規定)があり、登録資本金の額によって、投資総額の上限が決まっていました。

現在では、外商投資法が公布、施行されたことにより、外資と内資の扱いの統一が進み、外商投資企業も投資総額を登記する必要がなくなり、登録資本金と投資総額の比率に関する上記の規定は適用されなくなりました。

 しかし、この規定は現在も有効であり、地方によっては依然として適用されている例が存在しますので、中国で新たに会社設立を検討する際には地方実務の確認が必要になります。

3 出資時期
(1)原則
 従前は、登録資本金を法律で定められた短期の払込期限内に実際に払い込むことが要求されていましたが、2013年12月28日に改正会社法が公布され、2014年3月1日の施行日より、会社登記機関にて全出資者が引き受けた出資額を登録資本金として登記し、かつ、具体的な出資時期を出資者間で約定したうえで定款に記載する登録資本金引受登記制度が採用されています(中国会社法第26条、第28条)。このため、出資時期について法律上の制限規定はなく、投資者の協議により自由に約定したうえ定款で定めることができます。
 実務では通常、会社の設立登記及び銀行口座の開設後、定款で定める出資時期に従い、登録資本金を会社の銀行口座に送金します。

(2)例外
 登録資本金の実際の払い込みについて、法律、行政法規及び国務院の決定に別段の規定がある場合は、それに従うことになります(中国会社法第26条第2項)。

特定の産業では、特定の産業に関する特別法又は条例において登録資本金の払い込み期限が規定されており、従前通り、規定された期限内に登録資本金を実際に払い込む必要があります。

例えば、商業銀行法第13条第1項においては、所定期間内に登録資本金を払い込まなければならないと規定しています。特定の産業の例として、商業銀行、外資銀行、金融資産管理会社、信託会社、ファイナンスリース会社、消費者金融会社、証券会社、保険会社、労働派遣会社、マイクロクレジット会社等があり、金融系の産業が多くみられます。

4 出資方式
(1)総論
 出資者は金銭の他に現物、知的財産権、土地使用権等の金銭により評価することができ、法律により譲渡することが可能な金銭以外の財産をもって出資することもできます(中国会社法第27条第1項本文)。

ただし、法律、行政法規により、出資することができないと規定されている財産はこの限りではありません(中国会社法第27条第1項但書き)。例えば、労務、信用、自然人の氏名、商業上の信用、フランチャイズ権又は担保を設定した財産権は出資することができません(会社登録資本金登記管理規定第5条第2項)。

出資者は、定款に定められた払込みを引き受けた出資額を期限通りに全額払い込まなければなりません。金銭をもって出資する場合は、会社が銀行に開設する口座に全額を振り込まなければならず、金銭以外の財産をもって出資する場合は、法律によりその財産権の移転手続を行わなければなりません(中国会社法第28条第1項)。

(2)土地使用権
ア 土地使用権
 土地使用権をもって出資する場合、その価値を評価する必要があり、法律に基づき土地使用権の移転手続を行い、土地を実際に引き渡さなければなりません(中国会社法第27条、第28条)。

土地使用権には払下土地使用権と割当土地使用権という2種類の権利があります。払下土地使用権は、土地の使用期間内であれば土地を占有、使用、収益、処分することができ、譲渡、賃貸、抵当権設定又はその他の経済活動に利用することについて認可の必要がありません(都市部の国有土地使用権の払下及び譲渡に関する暫定条例第19条、第28条、第32条)。

一方、割当土地使用権は、土地インフラ用地や公益事業用地といった公共目的のための無償使用を許される土地使用権であり、譲渡、賃貸、抵当権設定を行う際に、市、県人民政府土地管理部門、建物管理部門の認可が必要になります(都市部の国有土地使用権の払下及び譲渡に関する暫定条例第44条、第45条)。

弊所の経験上、公共目的使用を想定した割当土地使用権の性質から、外国企業と中国企業の合弁事業の目的のために割当土地使用権の現物出資について認可を得ることは非常に困難であり、過去には日本企業が割当土地使用権の性質を十分理解しないまま現物出資に同意し、後でトラブルに発展したケースもあります。そのため、現在においても、土地使用権の現物出資が提案された場合には、当該土地使用権の性質、用途を事前に確認することが重要になります。

イ 出資条件と手続
 土地使用権の出資に際しては、以下の5つについて注意する必要があります。

 ① 権利帰属
自身が合法的に所有する土地使用権をもって出資しなければなりません(会社法適用の若干問題に関する規定(三)[8]第7条)。

 ② 権利制限
権利制限がある土地使用権をもって出資することはできません。
割当土地使用権をもって出資する場合には、上記のように市、県人民政府の土地管理部門と建物管理部門の認可が必要になる制限があります。
 認可を経ていない割当土地使用権や権利負担が設定(例えば抵当権の設定等)された土地使用権をもって出資した場合には、会社、出資者、債権者は出資義務が未了であるとして、合理的期間内に土地変更手続又は権利負担の解除をするように請求することができます(会社法適用の若干問題に関する規定(三)第8条)。

 ③ 価値の評価
土地使用権をもって出資する出資者は、出資する土地の価値を評価して資産評価報告書を作成します。評価額と出資額の差が過大である場合には、出資者は差額分を金銭出資で補う必要があります。

 ④ 名義変更登記、引き渡し
土地使用権をもって出資する出資者は、土地使用権の名義変更登記を行い、さらに土地を実際に引き渡さなければなりません。

また、地上の建築物、その他の定着物の所有権は土地使用権と一緒に名義変更登記を行わなければならず、分けて行う場合には、土地管理部門及び建物管理部門の認可が必要となります(都市部の国有土地使用権の払下及び譲渡に関する暫定条例第25条)。
なお、土地使用権の名義変更登記を行う機関、処理内容、必要書類は地域によって異なるため、事前に確認が必要です。

 ⑤ 登録資本金変更登記
作成された資産評価報告書と変更登記申請書等の申請資料によって、会社が管轄の工商登記機関で登録資本金の変更登記を申請します。

(3)知的財産権
ア 総論
 知的財産権をもって出資する場合、その価値を評価する必要があり、法律に基づき知的財産権の移転手続をしなければなりません(中国会社法第27条、第28条)。

特許権、商標権、著作権等をもって出資する場合、特許権、商標権、著作権等を証明する文書(特許証書、商標証書、著作権登録証、登録証明等)が必要です。
 これらの権利は、中国特許検索システム、中国商標ネット、中国著作権保護センター等のウェブサイトで調査することができます。

イ 手続
 知的財産権の出資に際しては、以下の4つの手続きを行う必要があります。

 ①価値の評価
 出資者が保有する知的財産権資産に対して価値の評価を行い、資産評価報告書を作成します。この評価は、客観的で真正な評価資料 により、専門評価機関のもとで科学的に合理性のある評価方法によって行わなければなりません。

 ②資産の検証
 作成された資産評価報告書に基づいて、登録資本金の出資について検証を行い、検証報告書を作成します。

 ③名義変更
 知的財産権の名義を出資者から会社に変更します。

 ④登録資本金変更登記
 作成された資産評価報告書、検証報告書及び変更登記申請書等の申請資料により、会社が管轄の工商登記機関で、登録資本金の変更登記を申請します。

ウ 実施権や使用権の現物出資
 知的財産権の権利そのものではなく、権利者から許諾された実施権や使用権をもって出資することは可能かという問題があります。実施権や使用権による出資について禁止する規定はありませんが、その可否については実務上、見解が分かれています。
 実施権や使用権も金銭により評価することができ、知的財産権局で登記することで移転し得るため、上記の現物出資の条件(会社法第27条第1項本文)を満たすとも考えられ、現物出資として認める裁判例も存在しています。
 しかし、法律上明確な規定がなく、実際の登記部門でも統一された見解はありません。例えば、北京市や広州市の市場監督管理局は、知的財産権の実施権によって出資することはできないとしています。

 弊所の経験上、日本企業側が知的財産権をもって出資する旨の日中合弁事業の交渉が進む中で、日本側は知的財産権の実施権の出資を想定し、中国側は知的財産権の権利そのものの移転を伴う出資を想定し、交渉が難航したケースもあります。今後、知的財産権による出資は増えると予想されますが、権利そのものの出資なのか、許諾に伴う実施権等の出資なのかを見極め、更に後者の場合には、各行政部門の実務状況を確認しながら実現可能性を慎重に見極める必要があります。

5 出資の履行
(1)出資を履行した場合
 有限責任会社は、出資証明書を出資者に発行しなければなりません。出資証明書には、会社の名称、成立日、登録資本金、出資者の氏名又は名称、払い込み出資額と出資日、出資証明書の番号と発行日を記載し、会社が押印して発行します(中国会社法第31条)。これは出資者が出資義務を履行したことを証明する重要な証拠になります。

(2)出資を履行しない場合
 会社又は他の出資者は、出資を履行しない出資者に対して、出資義務を履行するように求めることができます。建物、土地使用権、知的財産権等の財産をもって出資される場合には、その引き渡しや権利移転手続を請求することができます(会社法の適用についての若干問題に関する規定(三)第10条、第13条第1項)。なお、出資を履行しない出資者のみならず、他の出資者も会社に対して連帯責任を負います(会社法の適用についての若干問題に関する規定(三)第13条第3項)。


*本記事は、一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は当事務所にご相談ください。

*本記事は、Mizuho China Weekly News(第860号)に寄稿した記事です。