第44回 持分譲渡

Q日本企業X社は、中国において、中国企業Y社と合弁会社Z社(有限責任会社)を設立しました。その後、X社は中国市場から撤退することとし、X社が保有するZ社の持分を中国企業A社に譲渡することをY社に通知しましたが、Y社からは3か月が経っても反応がありません。どのように対応すればよいでしょうか?

AX社がZ社の持分をA社に譲渡するためには、Y社に対して、持分譲渡に係る事項を書面等により通知して同意を求めなければなりません。Y社が書面等の通知の受領日から満30日が経過しても回答しない場合は譲渡に同意したものとみなされ、Y社の優先買取権も満30日の経過により行使できなくなるため、X社はZ社の持分をA社に譲渡することが可能となります。

解説

1 総論

持分譲渡は、投下資本を回収する手段として、中国市場から撤退する際にも重要な選択肢となります。本稿では特に問題になる事が多く、中国において日系企業の多くが採用している有限責任会社を例に説明していきます。有限責任会社の持分譲渡は、出資者間の譲渡か、出資者以外の者への譲渡かによって処理方法が大きく異なります。

なお、定款に別途規定がある場合にはその規定に従うことになります(中国会社法第71条第4項)。

2 出資者間の譲渡
 有限責任会社の出資者間においては、互いにその全部又は一部の持分を譲渡する事ができます(中国会社法第71条第1項)。

 中国会社法では、出資者間の持分譲渡に対して制限をしておらず、出資者間ではその全部又は一部の出資について自由に譲渡することができ、株主会の決議も必要ありません。

3 出資者以外の者への譲渡
(1)総論 
有限責任会社は一般的に出資者の数が少なく出資者間の信頼関係が基礎となることが多く、出資者の内部関係の安定が会社にとって重要となります。

 そのため、中国会社法では出資者以外の者への持分譲渡を行うために、特に2つの内部手続が要求されます。1つはその他の出資者の過半数の同意、もう1つはその他の出資者の優先買取権の放棄です。

(2)過半数の同意
出資者が出資者以外の者へ持分を譲渡する場合は、その他の出資者の過半数の同意が必要となります。

 この場合、出資者はその持分譲渡に係る事項について、書面又はその他受領確認が可能な合理的方式によりその他の出資者に通知し、同意を求めなければなりません(会社法適用の若干問題に関する規定(四)第17条第1項)。

 通知内容については、中国会社法及び関連する司法解釈においては明確に規定していませんが、地域によってはガイドライン等で規定されています。例えば、上海市においては譲受人の関連状況、譲渡数量、価格及び履行方式等の主要な譲渡条件を含めなければならないとされており、これらの主要な譲渡条件が不明確で、契約解釈や補充的な方法によってこれらの条件を明確にできない場合には通知がなされたとはみなされません(上海高等法院の「有限責任会社出資者の優先買取権案件に関する審理についての若干問題の意見」第2条第2項)。

また、その他の出資者が通知の受領日から満30日が経過しても回答しない場合は、同意したものとみなされます。その他の出資者の半数以上が譲渡に同意しなかった場合は、同意しなかった出資者はこの譲渡持分を買い取らなければならず、買い取らない場合はその他の出資者が譲渡に同意したものとみなされます(中国会社法第71条第2項)。

 このように、譲渡する出資者は書面等の通知により同意を求めれば足り、株主会の方式により同意を得る必要はありません。

 なお、従前は外商投資企業の持分譲渡については、譲渡人以外の全ての出資者の同意が必要とされていました(外商投資企業の出資者持分変更の若干規定第9条第6号)が、現在ではこの規定は廃止されています(商務部 規章廃止部分についての決定[5]第2条)。

(3)その他の出資者の優先買取権
ア 概説
 その他の出資者の同意を得た持分譲渡については、その他の出資者が同等の条件での優先買取権を有します。2名以上の出資者が優先買取権を主張した場合は、協議によりそれぞれの買取比率を確定し、協議が調わない場合は、譲渡時の各自の出資比率に従い優先買取権を行使します(中国会社法第71条第3項)。

 上記(2)の同意と同様に有限責任会社内部の信頼関係を維持するための規定です。この優先買取権は出資者以外の者に譲渡する場合の権利であり、出資者間での譲渡の場合には優先買取権はありません。

イ 同等の条件
 優先買取権は「同等の条件」での優先権にすぎず、出資者以外の者に譲渡する条件がその他の出資者より優っている場合は、その他の出資者は優先権をもって自己に譲渡することを要求できません。 

 「同等の条件」を判断する際には、持分の数量、価格、支払方式、期限等の要素を考慮しなければなりません(会社法適用の若干問題に関する規定(四)第18条)。

ウ 同等の条件の通知請求権
 その他の出資者は、譲渡する出資者に対して書面又はその他受領確認が可能な合理的方法により、持分譲渡の同等の条件をその他の出資者に通知することを請求できます(会社法適用の若干問題に関する規定(四)第17条第2項)。

エ 行使期間
 その他の出資者が譲渡持分の優先買取権を主張する場合は、譲渡する出資者からの通知を受領した後、定款に定める行使期間内に買取請求を提出しなければなりません。

 定款に規定がない場合、又は規定が不明確な場合は、通知において定められた行使期間によります。通知において定められた期間が30日を下回る場合、又は行使期間が明確に示されていない場合の行使期間は30日となります(会社法適用の若干問題に関する規定(四)第19条)。

オ 優先買取権の侵害 
 譲渡する出資者がその他の出資者に持分譲渡に係る事項について意見を求めなかった場合、又は詐欺、悪意による通謀等の手段により、その他の出資者の優先買取権を侵害した場合には、その他の出資者は、同等の条件により当該譲渡持分を買い取ることができます。但し、その他の出資者が、優先買取権の行使に係る同等の条件を知り又は知るべきであった日から30日以内に主張しなかったとき、又は持分変更登記の日から1年を超えたときには買い取ることができません(会社法適用の若干問題に関する規定(四)第21条第1項)。

4 その他の手続 
(1)内部手続  
 持分譲渡契約が成立し、その他の出資者の過半数の同意並びにその他の出資者による優先買取権の放棄があった場合、譲渡人の出資証明書を取り消した上で、譲受人に対して新たな出資証明書を発行し、出資者名簿定款の記載(出資者及び出資額の記載)を変更する必要があります(中国会社法第73条、第31条、第32条第1項)。

(2)変更登記
 出資者に変更が生じた場合は、変更の日から30日以内に工商部門で変更登記手続が必要となります(中国会社法第32条第3項、会社登記管理条例第34条)。

(3)変更報告
 変更登記手続を行う際、企業登記システムを通じて、出資者の変更状況について変更報告を提出しなければなりません(外商投資情報報告弁法第11条第1項、第12条)。なお、従来は企業登記システムにおいて変更登記手続をした後に、別途商務部のシステムにおいても届出をする必要がありました。しかし、現在では市場管理監督局の企業登記システムが、商務部のシステムと変更情報に関するデータを共有しているため、市場管理監督局の企業登記システムにおいて変更登記手続をすれば、変更情報が自動的に商務部のシステムに送信されるようになっており、会社の手続が簡素化されています。

(4)手続と持分譲渡の効力との関係
 譲受人はその氏名又は名称が出資者名簿に記載されることで持分取得を主張できるようになります。但し、法律や行政法規に認可手続が規定されている場合はこの限りではありません。

 また、変更登記がされていない場合には、持分譲渡されたことについて知らない第三者に対抗することができません(全国法院民商事審判業務会議に関する紀要第8条)。

5 本件の検討
 X社がZ社の持分をA社に譲渡するためには、Y社に対して、持分譲渡に係る事項を書面等により通知して同意を求めなければなりません。
 Y社が書面等の通知の受領日から満30日が経過しても回答しない場合は譲渡に同意したものとみなされます。また、優先買取権の行使期間について、定めがない場合は30日となるため、満30日が経過したことでY社の優先買取権も行使ができなくなります。

よって、X社はA社にZ社の持分を譲渡することが可能です。さらにA社に新たな出資証明書を発行し、出資者名簿定款の記載(出資者及び出資額の記載)を変更し、変更登記手続を行う必要があります。


*本記事は、一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は当事務所にご相談ください。

*本記事は、Mizuho China Weekly News(第864号)に寄稿した記事です。