第48回 会社の執行機関(董事会)

Q:日本企業X社は、中国において、中国企業Y社と合弁会社Z社(有限責任会社)を設立しました。
持分割合はX社が30%、Y社が70%です。Z社にはY社より送られたA、B、Cと、X社により送られたD、Eの合計5名の董事がおり、Aが董事長となっています。
 AはZ社の董事会を招集し勝手に決議をしていたようですが、この際、董事であるD、Eにはこの董事会の会議について何ら通知がされておらず、D、Eは議決権を行使することができませんでした。
Z社の会社定款には、「董事会会議の開催は、会議開催の10日前に全董事と監事に対して通知しなければならず、その通知内容には、①会議の日時と場所、②議題とその関連資料、③通知の発送日時、④招集者である董事長の署名を含まなければならない」と規定されています。
このようなZ社の董事会決議の効力を争うことはできるでしょうか?

A:董事D、Eに通知をせずに董事会が開催されており、その決議には取消事由の瑕疵があると考えられるため、株主であるX社は、決議から60日以内であれば、董事会決議の取消しの訴えをすることが可能です。

解説

1 総論 
 董事会(日本の取締役会に相当)は会社の執行機関で、会社の組織機構の一つです。そのため、会社の経営において重大な役割を有し、会社、株主、及び債権者などの第三者の権益に大きな影響を与えるため、董事会の規定は日系企業の実務においてもしばしば問題となります。

そこで今回は、董事会の規定について、日系企業の多くが採用している有限責任会社を例に説明していきます。なお、中外合弁企業について規定していた中外合弁企業法が、外商投資法の施行により失効しており、今後は日系企業の董事会の組織・運営に中国会社法の規定が適用されるため、以下では中国会社法の規定について説明します。

2 董事会の構成
(1)董事会の設置、執行董事
 有限責任会社は、原則として董事会を必ず設置しなければなりません(中国会社法第44条第1項)が、もし株主の人数が比較的少なく、又は会社の規模が比較的小さい有限責任会社の場合には、執行董事を1名置き、董事会を設置しないことができます(中国会社法第50条第1項)。
 この場合、執行董事の権限は、会社定款により定めることができます(同条第2項)。

(2)董事
 有限責任会社の董事会は3名から13名の董事により構成されます(中国会社法第44条第1項)が、同数投票により決議ができない状況を避けるため董事の人数は奇数にするのが通常です。
 董事の任期は会社定款により定められますが、3年を超えることができません。ただし、任期満了後は再任することができます(中国会社法第45条第1項)。

(3)董事長、副董事長
 董事会は、董事長を1名置くものとし、副董事長も置くことができます。その選出方法は会社定款により定めることができます(中国会社法第44条第3項)。従来の中外合弁会社では、合弁当事者の一方が董事長を務める場合、他方当事者が副董事長を務める(中外合弁企業法第6条第1項)と規定されていましたが、その制限がなくなっています。

(4)総経理
 有限責任会社は総経理を置くことができ、董事会が任命又は解任をすることができます。従来の中外合弁会社では、総経理の設置が義務付けられていました(中外合弁企業法実施条例第35条)が、中国会社法では設置が任意となっています。総経理は董事会に対して責任を負い、会社定款や中国会社法第49条に定める権限を行使するとともに、董事会の会議に列席します(中国会社法第49条)。

(5)法定代表者
 董事長、執行董事、総経理は、会社定款の規定により会社の法定代表者となることができます(中国会社法第13条)。

3 董事会の権限
(1)中国会社法の規定
 董事会は、株主会に対して責任を負い、次に掲げる権限を行使します(中国会社法第46条)。
なお、この権限は株式会社の場合も同様です(中国会社法第108条第4項)。

①株主会会議を招集し、かつ株主会で業務報告を行う。
②株主会の決議を実行する。
③会社の経営計画案及び投資案を決定する。
④会社の年度財務予算案及び決算案を作成する。
➄会社の利益配当案と欠損補填案を作成する。
会社の登録資本金の増加案又は減少案及び社債発行案を作成する。
会社の合併、分割、解散又は会社形態の変更案を作成する。
⑧会社内部の管理機構の設置を決定する。
⑨総経理の招聘又は解任及びその報酬事項を決定し、かつ総経理の指名に基づき会社の副総経理、財務責任者の招聘又は解任及びその報酬事項を決定する。
⑩会社の基本的管理制度を定める。
⑪会社定款に定めるその他の権限。

(2)外商投資法の施行による変化
 従来の中外合弁会社では、会社の意思決定が董事会により行われており(中外合弁企業法第6条第1項、第2項)、会社定款の修正、登録資本金の増加・減少、解散、会社の合併・分割等の会社の重大事項の決定権は董事会にあり、出席董事の全員一致により決議するものとされていました(中外合弁企業法実施条例第33条)。
 中国会社法では、これらの重大事項の決定権は株主会にあり、会社定款で特段の定めがなければ、3分の2以上の議決権を有する株主により決議されることになります(中国会社法第43条第2項)。

4 董事会の手続
 
有限責任会社の董事会の議事方式と議決手続は、中国会社法に定めがある場合を除いて、会社定款により定める(中国会社法第48条第1項)と規定されており、株式会社や従来の中外合弁企業法の規定と異なり、幅広く会社の定款自治に委ねられています。
 有限責任会社の議事方式と議決手続を会社定款で定めるにあたり、株式会社の規定が参考になるため、以下では有限責任会社と株式会社の手続を比較して説明します。

(1)会議の類型
 中国会社法は、有限責任会社の董事会会議の類型については明確に規定していませんが、株主会社については、以下のように定期会議と臨時会議の2種類を規定しています。
 定期会議は、毎年度少なくとも2回は開催しなければならず、会議開催の10日前に全董事と監事に通知しなければなりません(中国会社法第110条第1項)。
 臨時会議は、株主の議決権の10分の1以上董事会又は監事会の3分の1以上により、招集を提議することができ、董事長は提議を受けた日から10日以内に、董事会会議を招集し主宰しなければなりません(同条第2項)。

(2)通知
 上記の通り、株式会社の定時会議においては、会議の10日前に全董事と監事に通知しなければならないと規定されていますが、株式会社の臨時会議や有限責任会社においては、明確な規定がなく、通知内容、通知期限、通知方式について、会社定款により自由に定めることが可能です。

(3)定足数
 株式会社においては、董事会は董事の過半数の出席により行うと規定されています(中国会社法第111条)が、有限責任会社においては、明確な規定がなく、会社定款により定めることが可能です。
 従前の中外合弁企業では、3分の2以上の董事の出席が必要であった(中外合弁企業法実施条例第32条)のと比べ簡素化されています。

(4)議決
 董事会の会議は一人一票方式(中国会社法第48条第3項、第111条)を採用しており、各董事は同じ一票の議決権を有します。この点は出資比率を原則とする株主の議決権(中国会社法第42条)とは異なっています。
 株式会社の場合は、董事全体の過半数により行わなければならないと明確に規定されています(中国会社法第111条)が、有限責任会社においては、明確な規定がなく、会社定款により定めることが可能です。

5 董事会決議の瑕疵
(1)瑕疵の類型 
 会社決議の瑕疵の類型は3種類あります。中国会社法には、会社決議の無効(中国会社法第22条第1項)と、会社決議の取消し(中国会社法第22条第2項)の類型が規定されています。
 また、会社法適用の若干問題に関する規定(四)には、会社決議の不成立の類型が新たに規定されています(会社法適用の若干問題に関する規定(四)第5条)。日本会社法では、このような規定は株主総会の決議の瑕疵の場合に限定されており、取締役会の決議の瑕疵については具体的な規定がありませんが、中国会社法においては、瑕疵ある会社決議の効力に関する規定は、株主総会のみならず董事会決議の瑕疵についても適用されます。

(2)取消しの瑕疵
 株主は、董事会決議に下記の取消事由がある場合には、決議から60日以内に、董事会決議の取消しの訴えをすることができます(中国会社法第22条第2項)。

①決議を行った会議の招集手続が法律、行政法規又は会社定款の規定に違反する場合
②決議を行った会議の決議方法が法律、行政法規又は会社定款の規定に違反する場合
③決議の内容が会社定款に違反する場合

6 本件の検討 
 以上から、決議には取消事由の瑕疵があると考えられるため、株主であるX社は、決議から60日以内であれば、董事会決議の取消しの訴えをすることが可能です。


*本記事は、一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は当事務所にご相談ください。

*本記事は、Mizuho China Weekly News(第878号)に寄稿した記事です。