第7回 株主に与えられる権利

皆さん、こんにちは。Poblacionです。
フィリピンの会社法には、取締役会が会社の全権の行使、全事業の遂行及び全財産の管理を行うという明文規定があります。しかしながら、株主に会社の経営及び運営に参加する権利がない、ということではありません。株主の権利を保護し、経営陣及び取締役会による権利濫用の可能性を防止するため、株主には会社法によって以下記載の各種権利が与えられています。

議決権

原則として全株主に、取締役の選任及び理由の有無を問わない取締役の交代又は解任を行う権利があります。さらに少数株主を保護するため、取締役の選任には累積投票制度を採用して少数株主が取締役会メンバーを選任できる機会を多く得られるよう会社法に明示的に規定されています。当該制度では、投票によって埋められる席数にかかわらず、複数の株主が所有する議決権を全て累積して一名の候補者に投票することが認められています。また、会社法には、正当な理由なくある取締役を解任することが取締役会における少数株主の代表権を否定することになる場合、かかる解任は認められないことも定められています。

議決権に含まれるのは、取締役の選任に参加する株主の権利だけではなく、会社の存続期間の延長又は短縮、増資又は減資をする行為等、会社の基本的重要事項の全てに参加する権利が含まれます。実際、会社法には、無議決権株式(すなわち、無議決権優先株及び償還株式等、定款に基づき議決権を伴わない株式)の保有者であっても、下記事項については投票権を有することが規定されています。

  • 定款の改定
  • 付属定款の採択及び改定
  • 会社資産の全部又は実質的全部の売却、リース、交換、抵当権設定、質権設定又はその他処分
  • 担保付債務の負担の発生又は増加
  • 増資又は減資
  • 合併又は統合
  • 会社の主要目的以外の目的のための会社資金の投資
  • 会社の解散
配当請求権

株主には配当を受け取る権利がありますが、当該権利の行使には一定の条件があります。第一に、会社に、配当金のベースとなる制限のない内部留保金がなければなりません。第二に、取締役会が、配当金の支払を正式に宣言しなければなりません。配当金は、現金、財産又は株式のいずれとすることもできます。第三に、取締役会が株式配当の発行を決定した場合、当該目的のために招集された総会で、発行済み株式資本の3分の2以上に値する株主らの承認を得なければなりません。

取締役会が配当金の宣言をしない場合はどうなるでしょうか?答えは簡単です。株主は、配当金を受領する権利を得られません。但し、配当が不合理に抑制されるのを防ぐため、会社法は、払込済み資本の100%を超える利益剰余金を会社が留保することを禁止しています。また、会社の拡張プロジェクト又はプログラムに当該利益による資金調達が意図されている等、正当な理由がある場合に限って、会社は剰余金を留保することができます。これに該当しない場合、会社は、証券取引委員会(SEC)のみならず、内国歳入庁(BIR)による制裁を受ける可能性があります。なお、BIRは、不当留保金に対して10%の課税をします。

株式買取請求権

株式買取請求権とは、基本的なコーポレート・アクションに反対する株主が、会社から撤退し、自己所有株式の公正価格による買取を請求できる権利を意味します。会社法では、下記条件の場合、反対株主による株式買取請求権の行使を認めています。

  • 株主の権利又は株式クラスの変更、発行済み株式を超える優先権の認許、あるいは会社の存続期間を延長又は短縮する効果をもたらす定款の変更が行われる場合
  • 会社の財産及び資産の全部又は実質的全部の売却、リース、交換、譲渡、抵当権設定、質権設定又はその他処分を行う場合
  • 合併又は統合を行う場合

株主が当該権利を行使するには、実際にコーポレート・アクションの議案に反対することが要求され、投票への欠席や棄権だけでは足りません。また、株主は投票が行われてから30日以内に、株式買取請求権を行使する意思があることを会社に書面で通知しなければなりません。当該期間内に請求が行われない場合、株式買取請求権は放棄されたとみなされます。さらに、会社の帳簿上、利用可能な制限のない内部留保金がない場合には、反対株主が行使できる株式買取請求権もありません。

会社帳簿を閲覧し財務諸表の提供を受ける権利

いずれの取締役又は株主も、会社の通常就業時間内に、会社の全業務取引の記録及び一切の会議議事録を閲覧することができます。さらに、取締役又は株主は、自己負担で、記録又は議事録の抜粋のコピーを要求することもできます。但し、閲覧を要求する者が、過去に会社情報の不適切な利用をしたことがある場合、あるいは当該要求が誠実な又は正当な目的ではない場合には、閲覧が拒絶されることもあります。これら以外の理由で閲覧を拒絶した会社役員は、会社法違反による民事責任及び刑事責任の両方を問われる可能性があります。

いずれの株主にも、会社帳簿の閲覧権に加え、会社の直近の財務諸表(バランスシート及び詳細な損益計算書を含む)のコピーの提供を受ける権利があります。会社は、株主の書面による要求を受領してから10日以内に書類を提供しなければなりません。

新株引受権

株主は、新株引受権、すなわち、会社の追加発行株式を各自の株式保有率に応じて引受ける権利を有します。新株引受権の付与により、株主は、自己所有株式の希釈化から保護され、会社に当初投資した時と同レベルの議決権を将来においても保有することが保証されます。但し、以下の場合、株主の新株引受権が拒否されることもあります。 (a) 定款にその旨規定されている場合 (b) 株式公募又は最低公開株式数の義務付けがある法律に従って、株式が発行される場合 (c) 発行済み株式資本の3分の2以上を保有する株主らの承認を得た上で誠実に、会社の目的に必要な財産と引き換え、あるいは以前の約定債務の支払いとして、株式が発行される場合。


*本記事は、フィリピン法務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。フィリピン法務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は当事務所にご相談下さい。