第15回 お役所仕事撲滅への闘い

皆さん、こんにちは。Poblacionです。今回はフィリピンでのお役所仕事についてお話しします。フィリピンでは、政府機関の事務処理速度が遅く、かなりの時間がかかり、いらいらさせられることもあります。許可を申請したのに処理されずしばらく放っておかれた、というような話を聞かれた方もいらっしゃるでしょう。それも数週間どころか数ヶ月も!申請手続を進めていく途中で元々依頼していた事務所から別の事務所に回された、という経験をされた方もいらっしゃるかもしれません。公務員の中には、申請手続を迅速に進めるための「賄賂」を申請人に要求する者がいるという噂が絶えないのも事実です。

非効率的なお役所仕事は外国人投資家を遠ざける一因で、フィリピンでは深刻な問題となっており、また、汚職の温床にもなっています。例えば、申請人は政府の許可を受けるためだけに、賄賂の支払や公務員への贈賄を余儀なくされたり、申請の処理を迅速に進めるため、申請人が「調整役」や斡旋人を雇うこともあります。

そこで制定されたのが、共和国法第9485号、別名2007年反官僚主義法(「ARTA」)です。ATRAは、透明性が高く納得できる公共サービスを求める大衆の強い要望に応えるべく制定された法律です。より効率的かつスピーディーな政府のサービスを提供する制度を確立させ、お役所的な仕事の対応を抑制することを目的としています。

ARTAの対象範囲

ARTAには、「第一線サービス」を提供する政府機関の遵守すべき規則が規定されています。 「第一線サービス」とは、政府の与える特権、権利、許可、申請、認定、認可、免許、その他必要項目の申請、変更又は延長を担当する政府機関と申請人との間における事務手続を指す用語です。第一線サービスの例には、証券取引委員会(「SEC」)における会社設立証明書の申請や内国歳入局(「BIR」)における納税者番号の申請があります。

ARTAは、行政機関(SEC、BIR等)、地方自治体及び政府が所有又は支配する企業のそれぞれにおける政府関連の全機関に適用されます。ただし、司法機関(裁判所等)、準司法機関(労働争議調停人及び借地借家調停人等)及び立法機関(上院及び国会等)については、独自の手続規則が適用されるため、ARTA適用の対象外となります。

ARTAに基づく義務

ARTAの制定により、政府機関はどのような義務を負うことになるのでしょうか。

①第一線サービスを提供する政府機関は、お役所的な仕事の対応を抑制し、処理時間を短縮するため、定期的に自らの事務処理手順を評価して見直すことが要求されます。

②政府機関は、市民憲章を策定しなければなりません。これには、特定のサービスを受けるための手順、各手順の責任者、手続完了までの最長期間、必要書類、料金及びクレーム手順等が記載されます。(SECの市民憲章:こちら、フィリピン経済区庁(PEZA)の市民憲章:こちら

③第一線サービスを提供する公務員は皆、申請人が提出した申請書/申立書を受諾しなければなりません。申請書/申立書を受諾する職員は、受領した書類を確認し、不備がないかを判断するための予備的評価を行う必要があります。この時点で職員が、申請書/申立書の受諾を拒否できるかというとできません。ARTAに基づき、申請書/申立書の受諾拒否は犯罪行為となり、これを犯した職員は行政処分の対象となることがあります。

④おそらく、これがもっとも重要な義務となりますが、簡単な事務処理、すなわち、覇束行為のみが要求される事務処理や重要性の低い事項に関する事務処理について、担当の公務員は、申請書/申立書の受領から5日以内に対応しなければなりません。一方、複雑な事務処理、すなわち、込み入った問題がかかわる事務処理については、受領日から10日以内に対応する必要があります。これらの期限は延長可能ですが、市民憲章に定められた最長期間を超えてはいけません。延長する場合、職員は、延長理由と処理完了予定時期について、申請人に通知する必要があります。

⑤ARTAは、政府機関が適切な措置を講じることなく申請書/申立書を返却することを禁止しています。申請書/申立書を却下する場合、その政府機関は申請人に対し、却下の理由を記載した正式な却下通知を書面で送付しなければなりません。却下の理由が提出書類の不備である場合、却下通知には、申請人による提出漏れのあった必要書類の一覧を記載する必要があります。口頭による却下通知は認められません。

⑥政府機関は、昼休憩中も申請人に対応できるよう、業務スケジュールを適切に設定するよう要求されています。さらに、政府機関は業務時間を過ぎても、事務所内に申請人がまだ残っている場合には、これに対応することがARTAにより義務付けられています。

⑦政府機関は、全事務所に一般向けサポートデスクを設立しなければなりません。さらに、全公務員は、業務時間中に正式な身分証を携帯している必要があります。

ARTA違反の罰則

下記の禁止行為は「微罪」とみなされ、ARTAに違反した公務員には行政罰が課されます。

  • 申請/申立の受諾を拒否すること
  • 申請/申立に対応しないこと、または必要事項不備のために対応できない申立について申請人に連絡しないこと
  • 業務時間終了前、または昼休憩中に事務所内にいる申請人に対応しないこと
  • 正当な理由なく、規定された期間内に第一線サービスを提供しないこと
  • 申請/申立の不承認について申請人に書面で通知しないこと
  • 無関係の要求を追加で課すこと

微罪の場合、30日間の停職と意識向上セミナーへの強制参加という罰則があります。2回目の違反の場合は3ヶ月無給の停職、3回目の違反の場合は解雇及び半永久的な公職追放という罰則がそれぞれ科されます。

ARTAにはまた、「調整」、すなわち経済的利益と引き換えに調整役と結託することは重大な犯罪行為であり、解雇及び半永久的な公職追放の罰則が科される旨が記載されています。「調整」行為を阻止するため、調整役には6年の懲役及び/又は2万ペソから20万ペソの罰金が科されることになります。

ARTAに行政罰が定められていても、違反した公務員に課されるべき民事責任又は刑事責任は免除されません。例えば、申請人から10万ペソを受け取らなければ申請への対応を拒否する、とした公務員は、ARTAに加え、収賄及び汚職行為防止法の両方に基づき、責任を追及される可能性があります(汚職行為防止法については、第4回フィリピン汚職防止法をご参照ください)。

実際、ARTAは政府関連の手続を定期的に行う人々にとっては非常に有用な法律です。もし、政府関連の手続でお役所的な仕事的の対応を受けた場合には、ARTAのコピーを是非お持ちください。


*本記事は、フィリピン法務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。フィリピン法務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は当事務所にご相談下さい。