第28回 商標登録出願における混同を生じさせるおそれについて

皆さん、こんにちは。Poblacionです。
今回はフィリピンにおける商標登録出願についてお話します。

商標登録出願の審査において知的所有権庁(IPO)が確認することの1つは、標章が「誤認又は混同を生じさせるおそれがある程に」先願商標と類似しているかどうか、という点です。混同を生じさせるおそれがある場合、IPOはその出願の登録を認めません。商標侵害について有罪か無罪かの判断でも、「混同を生じさせるおそれ」が重要なポイントとなります。登録商標の不正な使用、複製、偽造又は模倣が、商品自体又はその出所について「混同もしくは誤認を生じさせ又は欺瞞するおそれのある」場合、商標侵害の責を負う可能性があります。

さて、「混同を生じさせるおそれ」があるかどうかは、どのように判断するのでしょうか。最高裁判所は、「混同を生じさせるおそれ」の判断に際し2つのテストを策定しました。1つは要部テストと呼ばれ、2つの競合する標章の「要部」、すなわち「主要な特徴」の類似性に着目します。もし一方の商標に他方の商標の主要な特徴が含まれている場合、「混同を生じさせるおそれ」があることになります。この要部テストについては、知的財産法(IP法)にも明確に規定されています。

もう1つのテストである全体テストでは、商標に関連する状況全体が検討されます。ここでは、標章の要部の特徴だけ着目するのではなく、商標全体の外観、製品ラベル、梱包、価格、販売店、市場区分等、他の要素も考慮されます。IP法の制定前には、「混同を生じさせるおそれ」の判断にこの全体テストが用いられることがよくありましたが、IP法の制定以降、裁判所の方針は、似た態様の商標の比較のために全体テストを用いる方向に移りました。しかし、商標事件の判断時に裁判所が全体テストを用いることは、今でも時折あります。

競合する商標についてフィリピンの最高裁判所まで争われた例をいくつか以下に挙げます。

混同を生じさせるおそれなし

http://www.wipo.int/branddb/ph/jsp/data.jsp?KEY=PHTM.030578&TYPE=JPG&qi=1-NFLN3CzJ9jqiIZXi19/CWveJooThv3fI7xx%209wkrlAQ=

LEE

(HD Lee Company, Inc.)

STYLISTIC MR. LEE

(Emerald Garment Manufacturing Corporation)

商品:紳士用ズボン及びパンツ

商品: シャツ、T-シャツ、ズボン及びパンツ、ジーンズ、ブラウス、ソックス、ブリーフ、ジャケット、ジョギングスーツ、ドレス、ショートパンツ、スカート及び婦人用下着

最高裁判所は、上記事件で「混同を生じさせるおそれ」について判断するにあたり、全体テストを適用しました(注:本事件の判決は、IP法の制定前でした)。裁判所の判断は以下のとおりです。

「これら2つの商標には1つの共通要素(すなわち、LEEという語句)があるが、商標は全体的に捉えるべきである。これらの商標が付される製品、特にジーンズは、毎日使われる安価な家庭用品ではない。普通の購買者であれば、ジーンズを購入する際、より注意を払って識別する傾向がある。一般顧客は、通常、ブランドを認識してジーンズを購入するため、販売員に求めるのはジーンズ全般ではなく、たとえば、Levi’sのジーンズであったり、Guessのジーンズといったブランドである。このように、顧客は自分の好みを多かれ少なかれ認識しており、異なる2つのブランドに共通の特徴部分があったとしても容易に混同することはない。」

混同を生じさせるおそれあり

MASTER ROAST

FLAVOR MASTER

MASTER BLEND

(Societe des Produit Nestle SA)

(CFC Corporation)

商品: コーヒー及びコーヒーエキス

商品:インスタントコーヒー

最高裁判所は、上記事件で「混同を生じさせるおそれ」を判断するにあたり、要部テストを適用しました。裁判所の判断は以下のとおりです。

「先登録権利者(Nestle)の「MASTER ROAST」及び「MASTER BLEND」という標章の要部は、「MASTER」という語句である。「MASTER」という語句は、Nestle製品に目立つ形で印刷されている。また、Nestle製品の広告では常に「MASTER」が強調されており、例えば、Nestleのコーヒー製品の宣伝活動を行なっていた有名人は「Master of the Game」、「Master of the Talk Show」等と称されていた。」

裁判所はさらに、以下のとおり指摘しました。

「「MASTER」とはコーヒーに関して一般的でも記述的でもなく(注:一般的標章及び記述的標章には独占的使用権は認められません)、Nestleコーヒーの特性を示唆しているに過ぎない。大々的な宣伝のおかげで、「MASTER」は既に「MASTER ROAST」及び「MASTER BLEND」というコーヒー製品を意味するものとして、ある程度認知されている。よって、CFCがその製品「FLAVOR MASTER」において同じ「MASTER」という語句を使用した場合、混同や誤認を生じさせるおそれ、さらには一般のコーヒー購買者を欺瞞するおそれがある。」

混同を生じさせるおそれあり

BIG MAC及び関連標章

(McDonalds Corporation)

BIG MAK

(LC Big Mak Burger, Inc.)

商品:ダブルハンバーガー

商品:ハンバーガー

最高裁判所は上記事件においては全体テストを適用し、以下のとおり、LC Big Makによる「BIG MAK」という標章の使用は、結果的に混同を生じさせるおそれがあると判断しました。

「称呼上、LC Big Makの「BIG MAK」とMcDonaldsの「BIG MAC」は同一である。すなわち、「BIG MAK」と「BIG MAC」をそれぞれ発音すると、同じになる。外観上、2つの標章はいずれも2つの語句と6つの文字からなり、その1つめの語句は同じで、2つめの語句も最初の2文字まで同じである。」

最終的に、最高裁判所は以下のとおり判断を下しました。

「LC Big Makは、McDonaldsの「BIG MAC」という標章の要部を単に採択しただけではなく、「BIG MACの特徴のほぼ全て」を採択した。これら2つの標章が、ハンバーガーという同じ食品に付された場合、公衆に混同を生じさせることになる可能性がある。」

混同を生じさせるおそれなし

SHARK及びロゴ

(Danilo M. Caralde, Jr.)

GREG NORMANロゴ

(Great White Shark Enterprises, Inc.)

商品:スリッパ、靴、サンダル

商品:被服、履物及び帽子

最高裁判所は、上記事件で以下のとおり指摘しました。

「2つの標章はいずれもサメの形を使用しているが、両標章の間には外観上も称呼上も明白な違いがある。「GREG NORMANロゴ」は、緑、黄、青及び赤の線/筆を使ってサメの形をした輪郭が描かれているだけである。これに対して「SHARK及びロゴ」の方は、サメの形にデザインした文字で描かれている。また、後者にはサメの図案の下の「SHARK」という語句や、波の層、右側の木等、他の要素もいくつか含まれており、さらに色彩には青色が多く使われている一方で、一部に赤色、黄色、緑色及び白色も使用されている。全体のデザインは、二重線の楕円形で囲む形になっている。」

要するに、最高裁判所は2つの標章は外観上明らかに、かつ著しく非類似であると判断し、両標章の称呼上の相違を踏まえればさらに、一般の購買者に混同を生じさせる可能性はないと結論しました。


*本記事は、フィリピン法務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。フィリピン法務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は当事務所にご相談下さい。