第32回 フィリピンにおける使用者の金銭上の義務

皆さん、こんにちは。Poblacionです。フィリピンの労働コストは、他の諸国と比較して低い、と一般的に言われていますが、使用者には、フィリピン労働法に基づく様々な金銭上の義務が課されます。その金額は、他の国々ほど高額ではないかもしれませんが、使用者にはこうした義務の厳格な遵守が要求されます。

では、実際にフィリピンの使用者が労働者に対して負う金銭上の義務とはどのようなものか、見ていきましょう。()

I. 最低賃金

使用者には、最低賃金以上の賃金を労働者に支払う義務があります。最低賃金の金額は、組織の場所や労働者の作業の性質に応じて様々です。たとえば、マニラ首都圏の場合、現在の日額最低賃金、農業以外の組織については444ペソ~481ペソ(約1,213円から1,314円)、農業組織については、444ペソ(約1,213円)です。数多くの経済特区が所在するIV-A地方の場合、現在の日額最低賃金は農業以外の組織については261ペソ~362.5ペソ(約713円から991円)、プランテーション農業組織については、261ペソ~337.5ペソ(約713円から922円)、プランテーション以外の農業組織については、255ペソ~317.5ペソ(約697円から868円)です。地方ごとの現行の最低賃金日額についてまとめたものは、こちらからご参照頂けます。

なお、賃金は現金で支払わなければなりません。たとえ労働者が希望しても、使用者が現物や約束手形、引換券又はクーポンで支給することは禁止されています。賃金の支給は、16日を超える間隔があけないよう、月に少なくとも2回行なう必要があります。
(フィリピンでは、規程により賃金の支給を毎月2回に分けて行われています。)

II. 追加報酬

また、使用者には、最低賃金の他に、以下の報酬を支払う義務があります。

報酬

最低額

受給条件

支給対象外

13ヶ月目手当 1暦年中に労働者が支給された基本給総額の1/12 当該労働者が、本暦年中に1ヶ月以上就労した場合

13ヶ月目手当は、毎年12月24日までに支給

・管理職

・政府職員

・13ヶ月手当以上の支給を既に受けている労働者

・家政婦

・純粋に手数料ベースの支給、又は特定の作業の実施に対する固定額の支給を受けている者(作業の実施に要した時間は問わない)

残業手当 通常の日に実施された残業については、時給の25%増し

休日、通常の祝日又は特別な祝日に実施された労働については、時給の30%増し

通常の就労時間(8時間)を超えて労働した場合 ・政府職員

・管理職

・現場職員

・家政婦

・成果報酬制労働者

休日手当 休日又は特別な祝日に実施された労働については、日給の30%増し 労働者の休日又は特別な祝日に就労した場合 上記に同じ
夜勤差額手当 時給の10%増し 午後10時から午前6時までの間に就労した場合 ・政府職員

・管理職

・現場職員

・家政婦

・労働者5名未満の小売業及びサービス業

通常の祝日手当 労働者が祝日に就労しなかった場合は日給の100%、就労した場合には日給の200% 通常の祝日 ・政府職員

・管理職

・現場職員

・家政婦

・労働者10名未満の小売業及びサービス業

有給休暇(SIL)換算 5日分の給与相当額以上 勤続1年以上の労働者には、5日以上の有休休暇の権利がある

未使用の場合、SILを現金に換算することができる

・政府職員

・管理職

・現場職員

・家政婦

・労働者10名未満の組織

・既に給付を受けた労働者、又は5日以上の有給休暇を与えられた労働者

サービス料 徴収したサービス料の85%は一般労働者に(15%は経営陣に)分配 ホテルやレストラン等のサービス料を徴収する組織に適用

III. 社会福祉法に基づく分担金

使用者及び労働者には、フィリピン社会福祉法に基づく月々の分担金の納付義務があります。使用者は自己の分担分を負担し、労働者の分担分は、報酬から控除され、使用者によって管轄の政府機関に納付されます。

・社会保障制度(SSS)は、民間セクターの労働者のために政府が運営する社会保障制度です。月額分担金は労働者の報酬額によって異なり、120ペソから1,790ペソ(約328円から4,892円)の範囲となりますが、そのうちの83.70ペソから1,208.70ペソ(約229円から3,303円)は、使用者が負担します。

・フィリピン健康保険公社(PhilHealth)は、国家健康保険制度を運営しています。PhilHealthの月額保険料は、労働者の報酬額に応じて、200ペソ(約547円)から875ペソ(2,391円)の範囲になります。保険料は、使用者と労働者が2分の1ずつ負担します。

・住宅開発相互基金(Pag-IBIG)は、政府の国家住宅供給制度を管理しています。使用者の分担額は、労働者の月額報酬の2%相当額であり、労働者の分担額は、その報酬額に応じて、1%か2%になります。現在、使用者及び労働者のいずれについても、月額分担金の上限額は100ペソに設定されています。

分担金の不払に対しては、様々な罰則が社会福祉法により課されます。こうした罰則には、罰金の他、懲役刑も含まれますので、使用者は適正な金額の分担金を適切な政府機関に適時に支払う必要があります。

IV. 退職金

労働者にとってより有利な条件の退職制度がない場合、労働者は、60歳に達し、当該組織において勤続5年以上の場合、定年退職することができます。定年退職した労働者は、勤続年数1年につき半月分の給与に相当する金額を退職金として受領することができます。「半月分の給与」とは、労働者の22.5日分の給与に相当することを、最高裁判所は明確にしています。

※法律の規定による計算式は以下の通りです。
22.5日= 15日(半月) + 5 日(勤務奨励休暇)+ 2.5日(13ヶ月目(1ヶ月は30日とする)の給与の12分の1に値する日数)

上記では、使用者が労働者に対して負う金銭上の義務の最低額を記載しました。当然ながら、法律で規定された手当より厚い手当を使用者が与えても何の問題もありません。

注:本稿における数字及び金額は、2015年7月1日現在のものです。簡略にするため、特別法に基づいた一定の状況に特有な手当(出産手当及び育児手当等)については、本稿には記載しておりません。


*本記事は、フィリピン法務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。フィリピン法務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は当事務所にご相談下さい。