第36回 スマートフォン商標戦争

皆さん、こんにちは。Poblacionです。私にとってスマートフォンとは、今やなくてはならない存在です。スマートフォンの用途は電話をかけたりテキストメッセージを送ったりという従来の機能以外にも、自分のFacebookをチェックしたり、食べ物の写真を撮ったり、オンラインゲームで遊んだり、と多岐にわたっています。フィリピン人の間でも非常に人気の高いスマートフォンですが、残念なことに、その価格も高く設定されています。たとえば、iPhone 6の価格は1台約35,000ペソ、iPhone 6 Plusの価格は1台約41,000ペソとなっています。これは、日額466ペソという最低賃金の稼ぎしかない一般的なフィリピン人従業員にとっては、かなりの高額です。そのため、多くのフィリピン人は、断然低価格の国内ブランドの携帯を選択します。国内ブランドの携帯の1つであるMyPhoneは、比較的手の届きやすいスマートフォンを販売しており、その価格帯は、安いものは3,000ペソから高くても12,000ペソとなっています。

ところで、MyPhoneを実際に読み上げてみると、、iPhoneと似た感じに聞こえる、と思いませんでしたか?携帯ビジネスの巨大企業であり、有名なiPhone商標の所有者でもあるApple, Inc.も、そう思ったようです。

この商標を巡る争いは、2009年に始まりました。MyPhoneブランドの所有者であるSolid Broadband Corporation (SBC)が、フィリピン知的財産庁(IPO)に、携帯電話、充電器、ヘッドフォン、マイクロSDカード、Tフラッシュカード、電話用バッテリー及びスタイラスペンを指定商品として、「my|phone」という標章を登録しようとしたのです。SBCの商標の態様は以下のとおりです。

予想どおり、AppleがSBCの「my|phone」はAppleの著名なIPHONE商標と混同を生じさせるほど類似しているとしてその出願に対して異議申立を行ないました。Appleは、縦の棒線(「|」)が「phone」という語と組み合わされていることにより、外観上、称呼上において、「my|phone」はIPHONEに非常に類似しているとし、さらに、SBCがフィリピン国内で「my|phone」商標の登録を試みる前から、AppleがIPHONE商標を使用してきたことを主張しました。

これに対してSBCは、2007年にはSBCがMyPhone製品を発売し、自ら採択した「my|phone」標章をそれ以来継続的に使用してきた、と主張し、また、SBCは「my|phone」はIPHONEと混同を生じさせるほど類似するものではない、とも主張しました。2つの標章の間の類似点は、「phone」という語の使用だけであるが、「phone」とは普通名詞であって誰かが独占的に使用できるものではなく、さらに、「my|phone」における「my」の部分は、IPHONEにおける「i」とは大幅に異なる、と主張しました。

2015年6月、 IPO–法務局(BLA)は、SBCが「my|phone」商標を有効に登録することを認める決定を下しました。両標章は、「phone」という普通名詞については類似しているが、当該語句は誰かが独占的に使用できるものではない、とIPO-BLAはみなし、IPO-BLAは、「my|phone」がIPHONEと混同を生じさせるほど類似しているかどうかの分析において、「my」と「i」との相違にのみ焦点を当てました。BLAによれば、外観上、「my」は「i」とは異なり、称呼上、「my」と「i」は類似しているとも思われるが、「my」が2つの子音の組合せであるのに対し、「i」は純粋な母音として発音されることから、両者は識別される、ということでした。さらに、「my」は「私に関連する、あるいは、私に帰属する」という意味の形容詞であるのに対し、「i」はそのような概念を直ちに伝えるものでもない、ともみなされました。

さらに重要なこととして、IPO–BLAは、SBCが「my|phone」を使用しても、消費者にSBC製品とApple製品との混同を招くことはない、と結論付けました。携帯電話は、ブランドへのこだわりや意識が高い商品であるから、というのが その理由です。
[わかりやすく説明しますと、携帯電話の購入は、通常の日用品の購入とは異なる、とIPO-BLAは言っているようです。例えば、石鹸を買おうと思った人が、特定のブランドを意識していることは通常ありません。これに対し、携帯電話を購入する人は、購入したいブランドについてより明確に識別し、認識しています。スマートフォンを購入したいと思ったら、一般的に、仕様についてまず調査したり、特定ブランドの電話の価格と他のブランドの電話の価格とを比較したりします。電器店に行って店員に単に「スマートフォンが買いたい」と伝えることはなく、「iPhoneを買いたい」又は「My Phoneを買いたい」と伝えるのが普通です。]

AppleのIPHONEは人気が高いため、消費者がSBCの製品をIPHONEと混同する可能性は低い、とIPO-BLAはしました。Appleはその製品に「i」を継続的に使用していることから、「my」で始まる電話を見た人が、その電話をAppleと関連するものと捉える可能性は低い、ということでした。IPO-BLAはまた、AppleとSBCの商標及び製品が実際に外観上非類似であることも指摘しました。iPhoneとMyPhoneの外観を以下のとおり比較してみましょう。

iPhone MyPhone(以前の)

なお、IPO-BLAの決定に対しては、IPO長官宛の抗告が行なわれた後、さらに裁判所宛の抗告も行なわれる可能性がまだあります。したがって、Appleは、今回のこの商標争いには負けたかもしれませんが、(当然ながら、Appleが抗告をしないと決定しない限り)スマートフォン戦争に敗れたということではありません。このスマートフォン戦争において、「my|phone」とIPHONEのいずれが勝利を収めるのか、今後を見守っていくことにしましょう。


*本記事は、フィリピン法務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。フィリピン法務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は当事務所にご相談下さい。