第45回 88ペソ均一ショップ同士の紛争

皆さん、こんにちは。Poblacionです。私はケチな性分なので、日本の100円ショップに行くのが好きです。センスが良くてカラフルで機能的な商品がたくさんあり、信じられないくらい安い価格で売られているところが気に入っています。100円ショップに入ると、文房具や台所用品、化粧品であったり、時には、必要もないかわいいグッズであったりと必ず何かしら買ってしまいます。これまで私が100円ショップで見つけた戦利品の中で、もっともお気に入りと言えるアイテムは、色が変わるゆで卵用のタイマーです。半熟卵が苦手な私は、固いゆで卵を作るのにこのタイマーを重宝しています。

フィリピンにも100円ショップと似たようなものがあります。殆どの商品が88ペソで売られていることから88ペソ均一ショップと呼ばれています。フィリピンには有名な88ペソ均一ショップのチェーンが2つあります。その1つがJapan Home Centreで、2005年にフィリピンに設立され、以前は「Daiso」という営業表示を使用していました。もう1つがDaisoで、数年遅れてフィリピンでの営業を開始し、Daisoという商標が既にJapan Home Centreに取られていたため、「Saizen」という名称で営業をしていました。つまり、実際のDaisoが運営しているのではない「Daiso」という名前のショップと、Daisoが実際に運営している「Saizen」というショップがあったのです。

フィリピンでDAISO商標をJapan Home CentreとDaisoのどちらが使用する権利があるのか、法の場における紛争が何年も続きました。紛争の発端は、2005年に、Japan Home Centreのショップを設立したJapan Home, Inc.(JHI)という企業が、ニース国際分類の第21類の商品(台所用器具、食品用容器、スポンジ、掃除用ブラシ等)と第35類のサービス(家庭用品、家庭用具、浴室用品、電気機械器具、金物類、台所用品の小売業)を指定して、商標「DAISO/ダイソー」の登録出願を行なったことでした。JHIの商標の態様は以下のとおりです。

上記商標出願は2007年にフィリピン知的財産庁(IPO)により登録を認められました。

2009年、日本を拠点にDaisoの店舗を運営している株式会社大創産業(DICL)が、JHIの「DAISO/ダイソー」商標の取消を求める申立をIPO法務部(BLA)に提出しました。DICLによる申立の内容は、日本国内に会社を設立した1977年当時からDAISO商標を使用してきたDICLこそが、同商標の所有者であり先使用者である、というものでした。DICLは、自社の商標が世界中で国際的知名度を既に獲得していることも主張しました。例えば、2009年の時点でDaisoの店舗は日本国内だけでも既に2,500店舗を数え、2007年7月時点では世界各地に450もの店舗がありました。このことからDICLは、DAISO商標は周知商標であるため、フィリピンで先登録されていなくても保護を受けられるべきである、と主張しました(以前の記事で周知商標についてお話したのを覚えていらっしゃいますか?)。最終的にDICLはJHIがDAISO商標のグッドウィルや周知性にただ乗りする目的で同商標を使用し、消費者に混同を生じさせてJHIとDICLとの関連性を想起させている、と主張しました。

答弁書におけるJHIの主張は、同社こそが「DAISO/ダイソー」商標の所有者であり、最初の採択者かつ先願者であり、先登録者である、というものでした。DICLがDAISO商標の登録出願を行なったのは2008年2月になってから、すなわち、JHIが「DAISO/ダイソー」商標の登録出願を行なった3年後であり、JHIの出願がIPOから認められた1年後であることも指摘しました。JHIがさらにJHIの商標は、2005年からフィリピン国内で使用されていると主張しました(2005年当時、DICLのフィリピン国内1号店もまだ開店されていなかったようです)。

商標紛争の一回戦で勝利を収めたのはJHIでした。BLAは、商標登録の取消を求めたDICLの申立を却下し、JHIの「DAISO/ダイソー」商標の有効性を保持しました。外国で登録されていてもフィリピンで登録されていることにはならないため、DICLの外国におけるDAISO商標の登録は申立の理由として十分ではない、とBLAは判断しました。また、DICLがフィリピン国内におけるDAISO商標の実際の先使用を立証していないことも指摘しました。属地主義の原則に基づき、外国で使用していてもフィリピンにおける商標権は確立されないことをBLAは明確にしました。最終的には、DICLは「長期間、広範囲及び多くの地域における自社商標の登録、フィリピンその他の国々における活発な販促活動及びマーケットシェアを立証しなかった」ことから、DAISO商標の周知性は立証されなかった、と判断しました。

これで紛争が終わったわけでは決してありません(実際、最終的に勝利を収めたのはDICLです)。抗告においてフィリピン特許庁長官室(ODG)は、BLAの決定を覆しました。ODGは、DICLのDAISO商標は国際的に周知であるから、フィリピンでの先登録がなくても保護を受けられるべきである、と判断したのです。

JHIは控訴裁判所(CA)に抗告しましたが、CAは、ODGの決定を追認しました。CAは、フィリピンにおけるJHIの商標登録は、その所有権を推定したものに過ぎず、相反する証拠によって反証される場合がある、と強調しました。DICLが、JHIによる「DAISO/ダイソー」商標の使用及び登録の前から、DICLのDAISO商標が国際的に周知であったという証拠を提示したことにより、前記推定が覆されたのです。その証拠から、2006年には既にDICLがDAISOブランドの商品をフィリピンに販売していたことが示されました。DICLは、2001年当時から、世界の約30ヶ国において自社のDAISO商標の登録もしており、さらに、DICLの設立は1977年と古く、それ以来営業を継続していることも示されました。CAは、DAISOがDICLの商号であることも指摘しました。これらの理由から、DICLは、フィリピンも日本も加盟しているパリ条約に基づく保護を受けられるべき、と判断されたのです。

最終的にCAは、JHIの「DAISO/ダイソー」商標とDICLのDAISO商標は互いに類似しているが、JHIがDAISOを自社商標として採択した理由について説得力のある説明をしなかったことを考えると、JHI側に悪意があったと思われる、と判断しました。また、JHIが商品の仕入先がDICLであるような印象を作ったことも指摘しています。

紛争は、最高裁判所(SC)まで持ち込まれました。報道によれば、最近、CAの判決がSCによって追認され、DAISO商標に対する有効な権利を有するのはDICLであるという最終判断が下されました。実際、DICLは既にフィリピン国内でDAISOブランドを使用していたようです。一方のJHIは、自社店舗の表示に、「Japan Home Centre」というブランドを使用しています。

この事件から、どのような教訓を学びますか?自社ブランドをフィリピンでも展開する予定のはずが自社商標がフィリピンで既に登録されていることを発見した、という場合でも、心配はいりません。まだ負けたとは限らないのですから。今回のケースのように、自社商標が国際的に周知であること(そして、先使用者が悪意をもってその商標を不正使用したと思われること)を立証できれば、自社商標に対する有効な権利を認められる可能性はあるでしょう。


*本記事は、フィリピン法務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。フィリピン法務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は当事務所にご相談下さい。