第60回 特許?著作権?商標?

皆さん、こんにちは。Poblacionです。ご存知のとおり、知的所有権(IPR)にはいくつかの種類があり、その中で最も一般的なのは、特許、著作権及び商標です。私達弁護士は、これらを容易に区別できて然るべきです(4年間ロースクールで過ごし、難しい司法試験にも合格したのですから、目をつぶっていてもIPRの違いが分かるはずでしょう!)。しかし、一般の人々の日常生活の中では、特許と著作権と商標が混同されています。私はこれまで幾度となく、人々が「発明の著作権」を取得するとか、「ブランドの特許出願」をする、というようなせりふを聞いたことがあります。不幸なことに、このような混同から時には不利益な結果がもたらされることもあります。あるIPR所有者は、フィリピンの最高裁判所が判決を下した有名な事件で、このことを身をもって学びました。 今日はそのお話をしましょう。

その訴訟の当事者であったP&Dという会社は、「ライトボックス」を製造し、これを「Poster Ads」というブランド名で販売していました。さて、ライトボックスとは何でしょう?ライトボックスとは、デパートでよく見かける、壁に並んでいる広告用パネルのことで、プラスチック版に挟まれ非常に明るいバックライトで照らされたポスタープリントで作られています。P&DのPoster Adsライトボックスの一例は以下をご覧下さい。

GEDSC DIGITAL CAMERA
[画像出典:http://pdposterads.net/brightscreen/pd/]

P&Dは、ライトボックスの技術図面に対するフィリピンの著作権を申請し、その登録を受けました。著作権は明らかに、印刷物及び絵画入りの図解に関する「区分O」の作品として発行されました。P&Dは、「レターヘッド、封筒、名刺及びニュースレター等の文房具」を指定商品としてブランド名「Poster Ads」の商標出願も行い、その登録も受けました。

その数年後、P&Dは、自社のPoster Adsライトボックスに類似する広告用パネルがフィリピンで有名な百貨店チェーンであるSMが所有する数か所のショッピングモールに設置されているのを発見しました。さらに、P&DはそのSMの姉妹会社であるNEMIが、ライトボックスをリースして広告スペースを販売していることも発見しました。そこで、P&Dは、SMとNEMIに対し、Poster Adsライトボックスの使用中止と損害賠償金の支払いを要求しました。SM及びNEMIが要求に応じなかったことを受けて、P&Dは、これら2社を相手方として、商標侵害、著作権侵害、不正競争行為及び損害賠償請求を訴える訴訟を提起しました。

さて、本件の判決はどのようになったでしょうか?残念ながらP&Dの勝訴にはなりませんでした。裁判所は、SMもNEMIも、ライトボックスに対するP&Dの「著作権」やPoster Adsブランドの「商標」を侵害していない、という判断を下しました。その理由は以下のとおりです。

・著作権の非侵害

前述のとおり、P&Dには、ライトボックス自体ではなく、ライトボックスの技術図面に対する著作権が発行されたものであることから、技術図面のみが著作権保護を受けることができる。

本件において、SM及びNEMIについて、ライトボックスの図面の複製及び販売を行っているという主張はなされていない。もしこれらの行為をしていたなら、SM及びNEMI は著作権侵害に該当したであろうが、SM及びNEMIに対して主張されているのは実際のライトボックスのリースであり、R&Dは、この実際のライトボックスに対する著作権は有していない。

さらに、ライトボックス自体は、著作権の対象となり得る文学の著作物でも美術の著作物でもないという単純な理由から、著作権の対象とはなり得ない。P&D自身が公判中に、ライトボックスは文学の著作物でも美術の著作物でもなく、「技術的又は取引上の発明」であると自認している。

・特許の非侵害

ライトボックスは確かに、特許の適切な主題である「発明」とみなすことができるが、P&Dは、ライトボックスの特許出願をしなかった。フィリピン法上、他人による発明の複製や発明に基づく利益取得を阻止するためには、その発明に対する特許を受けていなければならない。簡単に言えば、特許なければ保護なし、である。P&Dは、ライトボックスに関する特許を取得していないため、P&Dのライトボックスに類似した広告パネルをSMやNEMIが製造したり、リースしたりしても、これを阻止することはできない。

・商標の非侵害

商標の登録権者は、登録に明記された商品についてのみ、その商標の独占的使用権を与えられる。原則として、商標権者は、異なる商品に他人が同じ商標を使用したり採択したりするのを阻止することはできない。本件において、P&Dの「Poster Ads」という商標は、「レターヘッド、封筒、名刺及びニュースレター等の文房具」についてのみ登録されており、その商標登録ではライトボックスはカバーされていない。よって、SMもNEMIも、広告パネルの識別表示として「Poster Ads」の標章を使用しても、侵害にはあたらない。

・不正競争行為の不存在

最後に、SMもNEMIも不正競争行為にはあたらない、と裁判所は判断した。フィリピン法上、不正競争行為とは、自己の商品を他人の商品であるかのように装う詐称通用(パッシングオフ)の意図をもって他人の商標を使用することをいう。本件において、「Poster Ads」という標章は、P&Dに関連付けられるにはあまりに一般的である。その上、P&Dは、本件の上告を行った際にこうした一連の主張を既に放棄している。

結果として、P&Dの訴えは却下され、SM及びNEMIには、P&DのPoster Adsライトボックスに類似した広告パネルの製造及びリースの権利が認められました。

上記の件では、P&Dが、自社のライトボックスは特許を受けられる発明であるとその特徴を適切に認識し特許を確保していたのであれば、法律上の厄介な問題を回避することができたでしょう。確かに、特許出願手続は、単純な著作権登録手続と比較して、極めて難しく、時間も労力もかかります。また、著作権保護が50年存続するのに対し、特許権者に認められる独占権の存続期間は20年しかありません(当時は17年でした)。しかし、よく言われるとおり、「痛みなくして得るものなし」、です。P&Dが自社のライトボックスを特許出願していたなら(そして当然ながら、特許が付与されていれば)、SMとNEMIがP&Dのライトボックスと同一又は類似の製品を盗用、製造、使用、及びリースしたりすることを阻止する権利が得られていたことでしょう。


*本記事は、フィリピン法務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。フィリピン法務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は当事務所にご相談下さい。