第63回 #ChoiceWins?

WS000000.JPG皆さん、こんにちは。Poblacionです。
2015年、米国最高裁判所は、米国全土で同性婚を法的権利として認めるという歴史的判決を言い渡しました。この判決が下された後、私のFacebookの友達の多くが判決を称賛し、自分のプロフィール写真に虹色のフィルターをかけてFacebookの投稿やツイートに#LoveWins(愛の勝利)と書き込んだことを記憶しています。

フィリピンで同性婚や性的少数者(LGBT=レズビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダー)の権利が認められるのは、まだ遠い先の話でしょう。たとえば、フィリピンの家族法では、結婚とは「男女間における永遠の絆という特別な契約」と明文化されています。カトリック教徒が大半を占める保守的文化の国ですから、フィリピンで同性婚が認められる可能性は(少なくとも現段階では)低いでしょう。

では、フィリピンでは、同性の二人が結婚することは認められませんが、LGBTが出生記録に記載された性別を変更/修正し、自分が選択する性別に変えることはできるのでしょうか?ひとことで言うなら、その答えはノーです。法律上、人の性別は、出生時に決められます。助産師が、出生児の外性器を肉眼で観察して判断します。志向を理由として性別を変更することを認める法律も裁判所規則も、フィリピンにはありません。法律上、出生証明書の「訂正」は認められていますが、この手続は、出生証明書にそもそも何らかの誤りがあった場合になります。

フィリピン最高裁判所における1件の事件を例に挙げます。性転換手術を受けたある男性(すなわち、トランスジェンダー)が、自分の出生証明書に記載された名前と性別の変更を求める申立を行いました。その男性は、解剖学的には男性として生まれましたが、自分は「女性として感じ、考えて、行動する」と主張しました。彼は、自分が男性の身体に閉じ込められていると感じ、心理検査やホルモン治療や豊胸手術も受けました。「女性」に変身したいという思いから、最終的にはバンコクで性転換手術を受けるに至りました。それ以来女性として生きてきて、実際に婚約もしていました。そこで、出生証明書の自分の名前を「ロンメル・ジャシント」から「メリー」に、性別を「男性」から「女性」に変えることを求めたのです。

最高裁判所は、この申立をほぼ全面的に却下しました。なぜなら、性転換手術を受けた人に名前と性別を変更する権利が与えられるとする法律がないからです。この事件では、男性は男性として生まれ、その性別は出生証明書にも正しく反映されていました。出生証明書を修正する正当な理由となる誤りはありません。名前の変更についても裁判所は、そのような変更が正当と言える合理的理由を男性が示さなかったと結論付けました。さらに、彼がまだ男性であることを考えれば、女性の名前に変えても混乱を招くだけであろう、とされました。

最後に裁判所は、その男性が、自分の婚約者である男性との婚姻を最終的な目的として申立を提出した、と指摘しました。そのような申立を認めれば、ある男性と性転換した別の男性との婚姻を認めることになり、これは婚姻法に違反します。一方、女性に特別に適用される法律も各種あります(労働法や刑法等)。これらの法律は、女性の権利に関する公の政策を具体化したものですが、その男性の申立が認められると、これらの法律が大きな影響を受けたり、否定されたりする可能性もあります。このようなことから、この事件では#ChoiceLoses(選択の敗北)となりました。

しかし、最近の事件でフィリピン最高裁判所は、ますます男性的になってきているという自覚のある「インターセックス」の女性に対し、より寛大な立場を取りました。この事件の当事者は、「女性」として生まれ出生証明書にも「女性」として登録された、ジェニファーという人物でした。彼女は、成長に伴ってその興味、外見、心、感情が、より男性的になりました。ジェニファーはすぐに、先天性副腎過形成(CAH)と診断されました。これは、一人の人物に男性と女性の両方の特徴が見られるという非常に稀な症状です。ジェニファーは女性ですが、その身体からは男性ホルモンが分泌されるのです。また彼女には、男性器と女性器の両方が備わっています。

やがてジェニファーは、自分の出生証明書の修正を求める申立書を提出し、名前を「ジェニファー」から「ジェフ」に、性別を「女性」から「男性」に変更するよう求めました。最高裁判所は、この申立を認めました。裁判所によれば、生物学上インターセックスである人の性別は、本人が成人年齢に達したときに自分で判断する性別に応じて決定するのが適切であろう、ということです。インターセックスの人は、その生物学上及び性的状況から、誕生時に性別の分類を決定付けることは難しく、ジェニファーのような人の場合、性別を決めることができるのは、成熟してからです。ジェニファーの体内で高レベルの男性ホルモンが生成されていることも、彼女を男性とみなす生物学的裏付になります。これらのことから、最高裁判所は、男性でありたいというジェニファーの意思を尊重し、彼女(彼)の出生証明書における彼女(彼)の性別を「女性」から「男性」に修正することを認め、さらに、彼女(彼)が望む性別を認めたことを受けて彼女(彼)の名前を「ジェニファー」から「ジェフ」に変更することも許可しました。こうして、この事件では#ChoiceWins(選択の勝利)となりました。

上記事例の通り、性別に関する問題はとても複雑です。いつの日か、フィリピンの立法機関や裁判所が、LGBTコミュニティーのメンバーの選択や指向をもっと寛大な気持ちで尊重し、法の下で彼らに平等の権利と機会を与えるようになることを願います。


*本記事は、フィリピン法務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。フィリピン法務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は当事務所にご相談下さい。