第70回 オンライン株主総会、3名の社長

皆さん、こんにちは。Poblacionです。フィリピン証券取引委員会(SEC)から、企業経営に関する非常に興味深い意見が発行されました。その意見で取り上げられた2つのポイントを見ていきましょう。

株主総会にオンライン出席?

第12回のコラムでお話したように、会社の取締役は、電話会議やテレビ会議で取締役会を開催することができます。最近、SECに対して「株主総会も、電話会議又はテレビ会議で開催することが可能か」という質問がありました。SECによる今回の回答は、「NO」でした。
皆さんは「扱いに違いがあるのはなぜだろう?」と思われたことでしょう。会社法の関連条項に、その理由があります。会社法第53条には、取締役会に関し、「フィリピン国内外のいかなる場所でも」取締役会を実施できる、という記載があります。取締役会の場所については会社法で限定されていないため、出席者が別々の場所にいても構いませんし、電子媒体を利用して会議を進めることもできるのです。

これに対し、株主総会に関する会社法第52条には、「会社の主たる営業所の所在地である市又は町において、さらに可能であれば会社の主たる営業所内で、行うものとする」と記載されています。SECは株主総会の開催時に出席者が同じ場所にいることが、この条項の前提としています。株主総会を電話会議で開催した場合、出席者は別々の場所にいてお互いに電子媒体を通じてのみやり取りすることとなるため、株主総会を電話会議で開催することはできない、ということです。

しかし、希望の光は見えています。現時点では株主総会を電話会議やテレビ会議で実施することはできませんが、SECによれば、会社法改正を提案する法案が現在国会で懸案となっており、その改正案には特に、電子手段を通じた株主総会の実施を認める内容が盛り込まれています。数ヶ月(もしくは数年)後には、SECによって、Skypeを利用した株主総会の開催や電子メールによる投票又はオンライン投票が許可される可能性もあります。

1社に社長が3人?

上記質問の他、SECの意見が求められたのは、ある会社(「S社」)が「付属定款を改訂して会社のPresident(社長)を3名にすることは可能か」という質問でした。S社は、会社再編の一環として、「President」という役職名の役職を3つ作ることを計画しています。3名のPresidentの位置づけはそれぞれ、会社の3つの主要事業分野の責任者として、CEO(最高経営責任者)の直属の部下となります。

この質問に回答するにあたりSECはまず、Presidentという地位の性質について説明しました。会社法第25条は、すべての会社に1名のPresidentを置くことを義務付けており、Presidentが行使する様々な権能及び責任には、以下が含まれています。

・取締役又は受託者解任のための(会社秘書役を通じた)臨時株主総会招集命令

・随時の又は付属定款の規定に従った臨時取締役会の招集

・全ての取締役会及び株主総会における議長役(付属定款に別段の規定がある場合を除く)

・合併届出書への署名

・会社の解散申立書の証明書への署名

さらに、Presidentには通常、会社の事業の監督及び運営が任されます。Presidentという立場の重要性を踏まえ、会社法にはPresidentについて以下の規定があります。
(i) 会社の取締役であること、並びに (ii) 会社秘書役又は財務役を兼任していないこと。

上記を踏まえてSECが助言したところによれば、会社法上の要件遵守という点から、誰がPresidentであるかをSECが判断できるような形においてのみ、S社の付属定款の改訂が可能ということでした。それぞれが「President」と称される3名の会社役員を認めれば、会社法に規定された職務を誰が遂行すべきかについて、そして、会社法に列記された適格性及び不適格性を誰に適用すべきかについて、誤認や混同が生じることになります。SECは結果として、3人の異なる人物に「President」という役職名を与える形でのS社の付属定款の改訂を認めませんでした。

S社の問題の解決は容易なことと思われ、会社役員の役職名を変更するだけで直ぐに是正できます。たとえば、CEOの役職名を「President」に変更し、3名のPresidentの役職名を「Vice-President(副社長)」又は「General Manager(総支配人)」に変更することもできます。あるいは、3名の役員の中から「President」を1名選び、他の2名には「Vice-President」という役職を与えることもできます。
上記からから学べることとして、フィリピンの会社には、「CEO」、「Managing Director(業務執行取締役)」、「Vice-President」又は「General Manager」の役職については希望に応じて何名でも設置ができますが、Presidentは1名となっていますので、ご留意下さいね!


*本記事は、フィリピン法務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。フィリピン法務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は当事務所にご相談下さい。