第83回 M&Aの際に義務付けられる届出手順

皆さん、こんにちは。Poblacionです。第41回コラムで、フィリピン初の包括的競争法として新たに制定された、フィリピン競争法(PCA)についてお話しました。近年、同法の実施に関して責任を担う機関であるフィリピン競争委員会(PCC)から、PCA実施細則(IRR)が発効されました。IRRは、基本的に、PCAとほぼ同様の規定を含んでいますが、M&A(合併・買収)に関する届出の規則と手順について、より詳細に規定しているという点で大きく貢献しています。

今回のコラムでは、M&Aに伴う届出手順についてお話していきましょう。

届出義務の基準

第41回コラムでお話しましたとおり、合併又は買収の当事者は、取引の価額が10億ペソ(約23億円)を超える場合には、当該取引についてPCCに通知する義務があります。これについてIRRは、取引価額の算出方法を決めるためのより明確な規則を定めています。具体的には、以下の場合に届出義務が発生します。

・フィリピン内で発生するか、フィリピンに持ち込まれるか、あるいはフィリピンから持ち出される年間総収益、又は最終的親会社のフィリピン国内における資産の価値が、10億ペソを超える場合

・以下の規則に基づく判断で、取引価額が10億ペソを超える場合

①資産の合併又は買収:
買収されるフィリピン国内の資産の総価額及び/又は買収される資産によってフィリピン内で発生するか、あるいはフィリピンに持ち込まれる総収益が、10億ペソを超える

②議決権付株式の取得:
会社のフィリピン国内における資産の総価額、又は会社がフィリピン内で発生させるか、フィリピンに持ち込むか、あるいはフィリピンから持ち出す売上による総収益が10億ペソを超え、かつ、株式取得の結果として、株式を取得する事業体による当該会社株式の所有が合計で、(i) 当該会社の発行済み議決権付株式の35%を構成する、又は (ii) 計画されている取引の前にその事業体による所有が既に前記割合を超えている場合には、発行済み議決権付株式の50%を構成する

届出手順

M&Aに関する届出が義務付けられる場合の手順について、以下に簡単にご説明します。

ステップ1: 届出前の相談
当事者は、正式な届出を行う前に、計画している取引についてPCCに相談する会議を要求できます。相談の際、当事者は、届出に含める必要のある具体的情報について、助言を求めることができます。この助言に拘束力はありません。

ステップ2: 届出書式の作成
合併又は買収の各当事者は、取引及び自己の事業活動について詳述した届出書式を作成する必要があります。当該書式には、会社の役員/取締役の署名が必要であり、当該役員/取締役は、宣誓の下、書式の内容が真正かつ正確であることを証明しなければなりません。

ステップ3: 書式の提出と事前評価
届出を行う全企業が、書式と併せて必要な証明書及び宣誓書を提出し、PCCから書式に不備がない旨の通知が発行されると、30日間の待機期間に入ります。PCCは、書式が提出されてから15日以内に、書式に不備がないかどうかを判断します。

ステップ4: フェーズ1審査
PCCは、30日以内に取引の審査を行います。

ステップ5: フェーズ2審査(必要な場合)
PCCは、必要に応じて、フェーズ1の審査期間中に、より包括的かつ詳細な取引の分析が必要である旨を当事者に知らせ、追加の関連情報/文書を要求します。

追加の関連情報/文書が要求されると、待機期間が延長されることになり、当事者に情報要求が届いた日を起算日として60日が追加されます。ただし、どのような場合にも、PCCの審査期間は、当事者の届出に不備がないと最初に判断された時点から最長90日を超えることはありません。

ステップ6: PCCの決定、判断
PCCが決定を下します。取引が、関連市場における競争を実質的に阻害、制限又は減殺するものであり、法律に規定された例外の基準にも該当しないと判断された場合、PCCは、以下のいずれかを行うことができます:

・取引の実施を全面的に禁止すること
・PCCの指定する変更を採用しない限り、かつ採用するまで、取引の実施を禁止すること
・関連する当事者が、PCCの指定する法的拘束力のある契約を締結するまで、取引の実施を禁止すること

理由を問わず、待機期間が経過しても何の決定も下されていない場合、合併又は買収は承認されたものとみなされ、当事者は、取引の実施又は遂行を進めることができます。

届出義務の対象である取引について、上記した届出の要件及び待機期間に従わないと、取引は無効とみなされます。さらに、買収する側の企業にも、買収される側の企業にも、取引価額の1%から5%という金額になる行政上の罰金が課されますのでご注意下さい。


*本記事は、フィリピン法務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。フィリピン法務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は当事務所にご相談下さい。