第85回 コーヒー商標事件

皆さん、こんにちは。Poblacionです。かつて、私はコーヒー中毒でした。食事には必ずと言っていいほど(朝食にも昼食にも夕食にも間食にも)、コーヒーがなければダメ、という状態にまでなりました。しかし、よく言われるようにたとえ良いものでも摂り過ぎは良くありません。私には数年前から胃酸が逆流する症状が現われ、その原因として一番に考えられたのがコーヒーの過剰摂取でした。医師からは、一日に飲むコーヒーの量を1杯までに(たまにはズルをして2杯までに)して、カフェインを控えるよう言われました。さて、コーヒーと言えば、最近フィリピンで大手コーヒーチェーンのスターバックス社と、日本の有名な乳製品メーカーである森永乳業株式会社との間で、両社のコーヒー商標を巡る紛争がありました。

この紛争は、森永が、自社の「MT. RAINIER THE MOUNTAIN OF SEATTLE ESPRESSO & MILK」商標を、フィリピン知的財産庁(IPO)に登録出願したところから始まりました。森永は、「MT. RAINIER」商標を、牛乳、乳製品、乳飲料、コーヒー、コーヒー豆、ミルク入りコーヒー飲料、コーヒー飲料等に使用することを意図していました。森永の商標の態様は、以下のとおりです。

それに対し、スターバックスは、「MT. RAINIER」商標が自社の「STARBUCKS」商標と同様に同心円を用いており、使われている色彩も同様であることから、混同を生じさせるほど類似していると主張し、森永の商標登録出願に異議申立をしました。「STARBUCKS」商標の使用されている商品が、「MT. RAINIER」商標の登録出願における指定商品と同様であることも主張されました。「STARBUCKS」商標の態様は、以下のとおりです。

「MT. RAINIER」商標の登録を認めるべきか否かを決定するにあたり、フィリピン知的財産庁−法務部(IPO-BLA)は、「MT. RAINIER」商標が「STARBUCKS」商標と、混同を生じさせるほど類似しているか否かを判断する必要がありました。IPO-BLAが指摘したのは、「STARBUCKS」商標における顕著な特徴部分は、「STARBUCKS」という語と人魚の図形であるのに対し、「MT. RAINIER」商標における顕著な特徴部分は、「MT. RAINIER」という語と山の絵である、ということでした。このことから、一方の会社の製品が、他方の会社に関連するものであると消費者が混同し、誤解し、欺罔される可能性は極めて低いとされました。いずれの商標も同心円を用いてはいるものの、このデザインによる類似性は、他の明らかな相違点を考えると、それほど重要視されるものではないからです。

さらに、コーヒー製品に関して、同様の同心円を特徴とする商標が、これまでにいくつも登録を認められていることも、IPOは指摘しました。以下が、そのような商標の例です。

IPO-BLAは、「STARBUCKS」商標と「MT. RAINIER」商標について、混同を生じさせるほど類似するものではないと判断した上で、異議申立を却下し、「MT. RAINIER」商標の登録を認めました。

上記の事件から、2つの商標が全体的な形や色において類似しているというだけでは、一方の商標を理由に他方の商標の登録を妨げるには不十分である、と言うことができるでしょう。
IPOが禁止しているのは、2つの商標が「混同を生じさせるほど類似していること」、すなわち、両商標の主要な、顕著な又は目立つ特徴部分が類似していることにより、購入者である公衆の頭の中に混同、誤解又は欺罔を生じさせることです。ですから、もし貴社の商標に、他の商標で既に使用されていると思われる基本的な形、色彩又は特徴が使用されていても、それほど心配される必要はありません。貴社の商標の主要な特徴が新しく特有なものであれば、それほど問題にならずに登録が認められる可能性は高いでしょう。


*本記事は、フィリピン法務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。フィリピン法務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は当事務所にご相談下さい。