第4回 台湾において取締役会を書面決議により行うことは可能か

日本では、会社法第370条に基づき、定款において書面決議を行うことができる旨を定め、且つ当該提案について取締役全員が書面又は電磁的記録により同意の意思表示をした場合、当該提案を可決することができる。
しかし、台湾ではこのような取締役会の書面決議を行うことができない。台湾の会社法第205条1、2項には次のように規定されている。
(第1項)取締役会を開催する際、取締役は自ら出席しなければならない。但し、会社定款に他の取締役が代理することができるという定めがある場合は、この限りでない。
(第2項)取締役会を開催する際、それがテレビ会議で行われ、その取締役が電子媒体を通じて会議に参加した場合、自ら出席したものとみなされる。
このうち、第2項は2001年11月12日の改訂において新規追加されたものである。
なお、台湾の会社法の主管機関である経済部は、2003年9月15日に商字第09202189710号函釈において「会社法第205条第2項の規定は、電送科学技術の発展により、人と人との意思疎通は同一の地点におけるものだけに限定されず、直接顔を合わせて話し合いを行うにあたり、例えば、テレビ会議の方法により話し合いを行っても、互いに討論するという会議の効果を得ることは可能であり、自ら出席することと変わりはない、ということに鑑みるものである。すなわち、電送する映像をもって直接顔を合わせて話し合いを行うという状況により、初めてそれが可能となる。その他の方法については、自ら出席したと見なしてはならない。」と示している。
つまり、テレビ会議以外の方法、例えば電話会議等では、いずれも自ら出席したことにはならない。では裁判所の見解はどうであろうか。
台中地方裁判所2010年度訴字第694号民事判決の見解によれば、電話会議の方法により当該回の取締役会に出席した人員は、自ら出席したと見なすことができず、すなわち、台湾の会社法第205条第1項に適合しない。但し、当該回の取締役会の出席取締役が定足数に達している場合、行われた決議はなお有効とする。
台湾に進出する日本企業が日本国籍の取締役を派遣して台湾の会社の経営に参与させることはよくあることである。台湾法上、取締役の国籍についての制限はなく、また取締役が長期に亘り台湾に居住しなければならないと要求されていないが、台湾の法律によれば、現時点では自ら出席する方式又はテレビ会議以外の方式で取締役会に参加することはできない。取締役が日本にいて、かつテレビ会議を行うことができる適当な設備がない場合、同条第5、6項の「主管機関に登記を申請して、台湾国内に居住するその他の株主に書面で委任し、常時取締役会に代理出席させる・・・。」という規定に基づくことができるが、第1項の「会社定款に他の者が代理することができるという定めがある」及び第3項の「委任状には招集事由の授権範囲を記載する」ことにも適合していなければならない。
なお、取締役会の開催地は台湾に限定されるわけではなく、日本において定足数に達することができる場合、日本で取締役会を開催することもできる。

最後に、日本の会社法第319条第1項は株主総会の書面決議も認めているが、台湾では可能だろうか。その答えはノーである。また、テレビ会議も不可であり、経済部は2014年5月20日の第10202049140号函釈において「会社の株主総会の開催方式について、会社法第205条第2項の取締役会に関する開催方式を類推適用してはならない」と示した。すなわちテレビ会議により株主総会を開催してはならず、自ら又は他人に委任してその場で出席し又は出席させることにより参加しなければならないのである。


*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は当事務所にご相談下さい。

執筆者紹介

台湾弁護士 鄭 惟駿

国立陽明大学生命科学学部在学中、基律科技智財有限公司でのアルバイトをきっかけに、大学卒業後も同社で特許技術者として台湾における特許出願(主にバイオ分野)に関する業務に従事。2011年から政府機関の中華民国行政院原子力委員会原子力研究所に勤務。同所の主力製品である放射性医薬品、バイオ燃料等の研究開発に付随する知的財産の権利化・ライセンス業務に携わる。2012年に台湾の弁護士資格を取得後、フォルモサンブラザーズ法律事務所に入所し、研修弁護士として知的財産訴訟業務に携わった。2015年4月、公益財団法人日本台湾交流協会の奨学金試験に合格し来日、国立一橋大学国際企業戦略研究科に学ぶ。2017年3月同大学研究科を修了、同年4月に弁護士法人黒田法律事務所に入所。