第58回 WINTEK社の会社更生手続申請

皆さん、こんにちは。黒田日本外国法事務弁護士事務所の外国法事務律師の佐田友です。

少し前に、台湾の映画「那些年,我們一起追的女孩」(邦題は、「あの頃、君を追いかけた」という名前のようです)を見る機会がありました。さすがに台湾史上に残るヒット作だけあって非常に楽しめましたね。「台湾の学校の卒業式でも蛍の光が流れるんだなぁ」とか、「台中の大地震のときは、北京でも結構、揺れたんだ」とか、「彰化は暑いから、家の中では素っ裸で過ごす人がいてもおかしくないな」(冗談です)とかいろいろ印象的なシーンがありました。

なんといっても主人公の男女が魅力的でしたね~。この男性の主人公の方は、今年、北京で逮捕されるという残念なニュースもありましたが、ぜひ再起してほしいものです。まだ、見ておられない方はぜひ一度、見てみられるといいと思います。青春時代を描くストーリー自体も共感できる人は多いでしょうし、台湾の風俗なんかも面白く見ることができると思いますよ~。

さて、本日は、WINTEK社(中文では「勝華科技股份有限公司」)の会社更生手続申請について取り上げてみたいと思います。

今年の10月にWINTEK社が会社更生(中文では「重整」)手続申請を行うというニュースがリリースされ、同社に対して債権を有している会社の方は青くなったことでしょう。私が少し調べただけで、ある東京証券取引所に上場している会社の香港子会社がWINTEK社に145億円を超える債権を有しており、取り立て不能又は取り立て遅延のおそれが生じたとして特別損失の計上を発表していました。

この会社以外にも、液晶モジュールを販売する会社の子会社には数十億円の売掛金があったようですし、日本の会社及びその台湾子会社などに与えた影響も相当なものがあったといえそうです。

台湾における会社更生手続は会社法に規定があり、基本的に日本と同じく会社更生手続申請と同時に、会社財産の保全処分等を求める申請もなされます。

今回のWINTEK社についても、11月14日に台中地方法院により、「WINTEK社は、自社が負う債務を履行してはならない」「債権者が仮差押、仮執行などの強制執行を本裁定公示後90日以内は停止しなければならない」などの内容の裁定が下されました。同法院において、現在、更生の可能性を慎重に検討しており、遠くない時期に、更生手続(更生管財人などを選定して関係人集会を開き、更生計画の審議、議決する)に進むか否かが決されるはずです。

私が同僚から聞いた、更生に成功した比較的有名な例として、上場会社・東隆五金のケースがあります。同社は1999年に裁判所に対し更生の申立を行い、更生裁定が下され、続く更生計画の関係人集会での議決を経て、約3年で更生手続が完了しました。その後の東隆五金の経営状況は良好で、これまでのところ、更生計画に従って債務の大部分が弁済されているとのことです。

東隆五金が更生に成功した重要な要因には、次のことが含まれていると一般的には考えられています。

  1. 更生計画が具体的かつ実行可能なものであったこと(更生管財人の能力が高かったこと)
  2. 東隆五金には、処分可能な、又は借金のために担保として供することが可能な一定の不動産等の資産があったこと
  3. 東隆五金の本業自体に、将来に渡り利益獲得の可能性があり、東隆五金を解散又は破産させるよりも、ある程度譲歩して「東隆五金に継続して経営させた方が良い」と債権者などが判断したこと

今回のWINTEK社について、裁判所がどのような判断をするか注目されます。WINTEK社が会社更生手続申請を行った時期からすると、今年の年末を迎える前のタイミングで裁判所が更生を許可するか否かの裁定を行う可能性があります。仮に裁判所が更生を許可する裁定を下した場合には、債権の存在を証明する書類を更生監督者に提出することが必須になります。この更生監督者への申告がなされなければ、更生手続による弁済を受けることができないことが、会社法上、明記されていますのでご注意くださいね~。


*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は当事務所にご相談下さい。

執筆者紹介

弁護士 佐田友 浩樹 (黒田日本外国法事務律師事務所 外国法事務律師)

京都大学法学部を卒業後、大手家電メーカーで8年間の勤務の後、08年に司法試験に合格。10年に黒田法律事務所に入所後、中国広東省広州市にて3年間以上、日系企業向けに日・中・英の3カ国語でリーガルサービスを提供。13年8月より台湾常駐、台湾で唯一中国語のできる弁護士資格(日本)保有者。趣味は月2回のゴルフ(ハンデ25)と台湾B級グルメの食べ歩き。