第92回 訴訟手続における電話会議システム等の利用

皆さん、こんにちは。黒田日本外国法事務弁護士事務所の佐田友です。

最近の衝撃的なニュースの筆頭格として挙げられるのは、天津での大爆発事故ですよね。激しい爆発の瞬間、そして爆発後のまるで戦場のような街並みなど、皆さまもニュース映像をご覧になられてびっくりされたことでしょう。私が見た台湾のニュース映像の一つに、監視カメラ映像であると思われる映像でしたが、どこかのドアの前にいた人が吹き飛ばされる映像がありました。確かにものすごい爆風であることは私に伝わりましたが、非常に怖い気持ちになったのも事実でして、小さなお子さんも含め誰もが見るテレビのニュースでここまで人を畏怖させるような映像を流すことに問題はないのかなぁと思ってしまいました。人は忘れる生き物であるから、「記憶はどんどん薄れていくので大丈夫」という考え方もあるのかもしれませんが、人によってはトラウマになってしまわないのかなぁと少し心配になりました。

先週の当コラムで台湾の司法院のペーパーレス化への取組ということで裁判記録の電子情報化について触れましたが、このような科学技術を裁判手続に生かすものとして、他にも電話会議やテレビ会議システムの利用が挙げられます。

日本の民事裁判では、裁判所が判断に必要な事実関係につき当事者間に争いがあり,争点及び証拠の整理を行う必要がある事件について,証人に尋問するなどの証拠調べを争点に絞って効率的かつ集中的に行えるように準備するため,争点及び証拠の整理手続を行う場合があります。そして、この準備手続として一番多く利用される弁論準備手続(法廷以外の準備室等において行われる必ずしも公開を必要としない手続)において,電話会議システムによって手続を進めることも実際によく行われています。

そこで、台湾では、電話会議やテレビ会議システムが裁判手続において使われることはないのか興味を持ち調べたところ、民事裁判、刑事裁判を問わず、証人尋問を行う場合に、テレビ会議システムを使うことができるという規定を見つけることができました(ただし、実務上は民事裁判ではほとんど使われることはないとのことです)。

そのうちの刑事裁判に関する法規は、遠距離にいる証人への尋問を行うことについて定められた「刑事訴訟遠距離尋問作業方法」(中文の名称は「刑事訴訟遠距訊問作業辦法」です)という法規で、尋問のために証人が所在する場所の政府機関や裁判所、検察局の設備を使用すること、当該設備は声と映像が相互にやりとりできる、すなわちテレビ会議システムでなければならないこと等について規定されています。

ちなみに日本においては、民事、刑事訴訟のいずれにおいても証人尋問を電話会議、テレビ会議システムを通じて行うことはできません。これは、裁判官などが直接、自分の目で証人の尋問時の受け答えや態度などを観察することを重視しているからであると考えます。もっとも、当事者や弁護士が遠隔地で行われる期日において出廷の負担を軽減する必要があることは日本も同様であり、証人尋問や証拠調べなどの一部の手続き以外においては、テレビ会議システムの利用などが進んでいくのかもしれませんね~。


*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は当事務所にご相談下さい。

執筆者紹介

弁護士 佐田友 浩樹 (黒田日本外国法事務律師事務所 外国法事務律師)

京都大学法学部を卒業後、大手家電メーカーで8年間の勤務の後、08年に司法試験に合格。10年に黒田法律事務所に入所後、中国広東省広州市にて3年間以上、日系企業向けに日・中・英の3カ国語でリーガルサービスを提供。13年8月より台湾常駐、台湾で唯一中国語のできる弁護士資格(日本)保有者。趣味は月2回のゴルフ(ハンデ25)と台湾B級グルメの食べ歩き。