第104回 教育に関する規定~その1

皆さん、こんにちは。黒田日本外国法事務弁護士事務所の佐田友です。

最近、あまりうれしくない話題ですがPM2.5のニュースをよく耳にします。台北市内でも台北101がかすんで見えるような日は、「PM2.5の数値が高いのかも」と思ってしまいます。私が以前暮らしていた中国の広州市では、ひどい時期には、室内にある空気清浄機のフィルターが1週間とか10日で真っ黒になるレベルだったので、それに比べれば台湾の空気はまだきれいな方かなと思っていたのですが、台湾でも空気の汚れを気にしなければならないようです。最近、「空汚假」という言葉をニュースで見ました。「空気汚染休暇」とでも訳せばよいのでしょうか。一定のレベルまで空気が汚れているときに、台湾では学校が休みになるらしいのですが、その基準が厳し過ぎて休みにできないので、「もう少し基準を緩和できないか」という声が上がっているというのがニュースの趣旨でした。どこで線引きするかはなかなか決めにくいのかもしれませんね~。

台湾は徳・智・体・群・美の五育

台湾の憲法を見ていて、「教育文化の目標」という規定があり、日本とは違っていて面白いと感じましたので、本日と来週、教育に関する規定における日本、台湾の違いなどを紹介してみることにいたします。

台湾の中華民国憲法における「教育文化の目標」として、「教育文化については、国民の民族精神、自治精神、国民道徳、健全な体格、科学および生活知能を発展させなければならない」とされています。「国民の民族精神」というような言葉は、日本では戦後はあまり使われなくなった言葉だと思いますが、台湾では68年前に中華民国憲法が起草された際から「目標」としてずっと存在しています(改正がされていないだけで、もしかすると時代遅れになっているのかも…)。

この憲法の規定を受け、台湾の国民教育法において、「国民教育は、憲法の上記規定に基づき、徳、智、体、群、美を養成することをもって、五育を均衡発展させた健全な国民とすることを根本理念とする」(ちなみに「群」というのは「協調性」というような意味であると同僚に聞きました)ことが第1条に規定されています。

日本は詳細に規定

日本国憲法においては、明確な教育の目標に関する規定はなく、「すべて国民は、法律の定めるところにより、その保護する子女に普通教育を受けさせる義務を負ふ」とされているのみです(理論的には、憲法前文に記載されているような崇高な理念を実現する国民を育てるというような推論はできるのかもしれません)。

そして、教育基本法において、教育の目的として、その第1条に「教育は、人格の完成を目指し、平和で民主的な国家及び社会の形成者として必要な資質を備えた心身ともに健康な国民の育成を期して行われなければならない」という内容が明記されています。そして、第2条に学問の自由を尊重しつつ、達成すべき目標として「幅広い知識と教養を身に付け、真理を求める態度を養い、豊かな情操と道徳心を培うとともに、健やかな身体を養うこと」「生命を尊び、自然を大切にし、環境の保全に寄与する態度を養うこと」「伝統と文化を尊重し、それらをはぐくんできた我が国と郷土を愛するとともに、他国を尊重し、国際社会の平和と発展に寄与する態度を養うこと」などの目標が規定されているんです(平成18年の改正により目標が具体的な規定になっています)。法律レベルでは、日本の方が、少し詳細に規定している感じですかね。

ただ、普通に生活していると、教育について実はこのような目標が法定されていることなんて知らない人が大部分でしょうし、意識もしないですよね~。私も改めて法規を見て、立派なことが書いてあるんだなぁと思った次第です。


*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は当事務所にご相談下さい。

執筆者紹介

弁護士 佐田友 浩樹 (黒田日本外国法事務律師事務所 外国法事務律師)

京都大学法学部を卒業後、大手家電メーカーで8年間の勤務の後、08年に司法試験に合格。10年に黒田法律事務所に入所後、中国広東省広州市にて3年間以上、日系企業向けに日・中・英の3カ国語でリーガルサービスを提供。13年8月より台湾常駐、台湾で唯一中国語のできる弁護士資格(日本)保有者。趣味は月2回のゴルフ(ハンデ25)と台湾B級グルメの食べ歩き。