警察による強制的な血液検査行為が違憲と認定される

 憲法法廷は2022年2月25日に第一号判決を下し、道路交通管理処罰条例(以下「本法」といいます)における警察による強制的な血液検査に関する規定は違憲であると認定しました。

 本件の概要は次のとおりです。2016年1月、花蓮県の男性Aが飲酒後にオートバイを運転していた時、自ら電柱に衝突して負傷しその場に倒れました。まもなく、Aは救急のため病院に運ばれました。

 当時、Aは意識不明の状態で、呼気によるアルコール検査を行うことができなかったため、警察は本法第35条第6項(自動車・オートバイの運転者が事故を起こした後に呼気によるアルコール検査を受けることを拒否し、または当該検査を実施することができない場合、交通業務を行う警察または法令に基づき交通取締りの任務を執行する者が、当該運転者を強制的に移送して受託医療機関または受託検査機関に当該運転者に対する血液またはそのほかの検体の採取および検査測定を実施させるものとする)により、病院に依頼してAに対する強制的な採血、血液検査を行わせました。

 その後、Aの血液中のアルコール濃度が非常に高いことが判明したため、検察官は「酒気帯び運転罪」でAを起訴しました。

 花蓮地方裁判所での第一審手続きにおいて、裁判官は、警察が検察官または裁判官の許可なく市民に対し強制的な血液検査を行うことを認める本法第35条第6項規定には憲法違反のおそれがあると判断し、裁判を停止して、憲法解釈を申し立てました。

 憲法法廷は審理後、警察による市民に対する強制的な採血、血液検査の行為は市民の身体権および情報権を侵害しており、事前に検察官または裁判官の許可を得なければならないとの判断を示し、本法第35条第6項は違憲だと宣告しました。

 また憲法法廷は、「第一号判決が下された後(2022年2月25日以後)に、警察が、市民が自発的にアルコール検査を受けることができない状況に遭遇した場合、検察官の許可を得てはじめて強制的な採血、血液検査を行うことができる。ただし、緊急の状況の場合には、警察はまず病院に依頼して強制的な血液検査を実施させた上で、24時間以内に検察官に報告して許可を求めることもできるが、検察官がこれを認めなかったときは、3日以内に当該血液検査に係る処分を取り消さなければならない」と指摘しました。

 本件の憲法法廷の判決は、法律面では特に問題はありませんが、現在の実務において、各地の検察署の検察官は「受理した事案が多すぎるため、事案の処理速度が遅い」、「業務量が多すぎて、自発的に裁判官に転身するかまたは離職する者が多い」といった問題を抱えています。本判決が下されて以降、検察官の業務負担は一段と重くなっているかもしれません。


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【執筆担当弁護士】

弁護士 黒田健二 弁護士 尾上由紀 台湾弁護士 蘇逸修