「税捐稽徴法」(税務調査徴収法)の改正について

「税捐稽徴法」(税務調査徴収法)は台湾の税金徴収の基本法である。関税と鉱物税以外の全ての国税や地方税に関する調査及び税の徴収は同法に基づき行なわれる(第2条)。

同法の第28条は税法上の不当利得の返還に関する規定であり、「納税義務者は、法令適用の誤り又は計算の誤りのため、過大に納付した税金について、納付した日から5年以内に具体的な証拠を提出し、還付申請を行うことができる。当該期限が経過し、かつ当該期限内に還付を申請していない場合には、還付を申請してはならない。」と規定している。

このような、税金を納付した日から5年が経過すると税金還付を申請してはならないという制限には、国民から様々な苦情が寄せられていた。たとえば、建物に関する税金還付についての苦情が挙げられる。

台湾において、建物を有する者は、台湾の「房屋(建物)税条例」により毎年課税される。事業用の建物の場合、税率は建物の価値の3%であり、自己の居住用の建物の場合、税率は建物の価値の1.2%である。

台湾のある有名な弁護士は、自己居住用の建物を有しているが、台北市政府にその建物を事業用と認定されたため、15年間に延べ17万台湾ドルの房屋税を過大に徴収された。当該弁護士は、税金の過大納付に気づき、台北市政府に対し、過大に徴収された分の税金の還付を請求したが、台北市政府は自らの誤りを認めながらも、上記の「税捐稽徴法」の第28条により5年分の過大納付分の税金の還付しか認めなかった。

当該弁護士は台北市政府の決定に対し不服を申し立て、台北高等行政裁判所にも提訴したが、敗訴した。

上記の事例のような国民の不満の声が多く寄せられていたため、台湾の行政院は、「税捐稽徴法」第28条を改正し、その改正案を立法院に提出した。改正案の内容は下記のとおりである。

  1. 改正案では、税金還付の申請期間の規定が、国民が自らの誤りで過大に納付した場合と、政府の税務調査徴収機関の誤りで過大に納付した場合に分けられている。国民が自らの誤りで過大に納付した場合については、改正案の第28条第1項は、「納税義務者は、自らの法令適用の誤り又は計算の誤りのため、過大に納付した税金に対し、納付した日から5年以内に具体的な証拠を提出し、還付申請を行うことができる。当該期限が経過し、かつ当該期限内に還付を申請していない場合には、還付を申請してはならない。」と規定し、自らの誤りで過大に納付する場合の還付期限を明確にした。
  2. 政府の税務調査徴収機関の誤りで過大に納付した場合について、改正案の第28条第2項は、「納税義務者が、税務調査徴収機関の法令適用の誤り、計算の誤り、又はその他政府機関の責めに帰することができる誤りのため、税金を過大に納付した場合、税務調査徴収機関は、誤りを知った2年以内に調査のうえ誤りを明らかにし、過大に納付された税金を還付しなければならない。還付する税金は、5年以内に過大に納付された分に限らない。」と規定し、国民が自らの誤りで過大に納付した場合と区別している。
  3. 改正案が施行される前に税務調査徴収機関が過大に徴収した分の税金の還付を受けることができるよう、本改正案の第28条第3項は、「本条の改正が施行される前に、前項の事由により税金を過大に納付した場合、改正後の規定を適用する。」と規定している。そのため、同案が施行されるまでに税務調査徴収機関の誤りで過大に納付した税金については、本改正案が適用されることになる。よって、本改正案が可決され実施されれば、本改正案の第3項により、上記の本改正案が施行される前に発生した過大徴収の事例においても、当事者が税金の還付を受けることが可能となる。
  4. 税務調査徴収機関が本改正案の施行前に発生した過大徴収を調査・還付しないことを防ぐために、本改正案の第4項は、税務調査徴収機関が本改正案の施行までに誤りを知っていた場合、上記本改正案第2項の2年間の調査及び還付期間は、本条の改正の施行日より起算されるとしている。

現在、改正案は立法院において審議中であり、立法院で可決されれば施行される見込みである。


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【執筆担当弁護士】

弁護士 黒田健二 弁護士 尾上由紀 台湾弁護士 蘇逸修