大手カラオケ業者の合併について

企業の合併について、台湾の「公平交易法」(独占禁止法)第11条第1項は、企業の合併により合併後の企業の市場占有率が全体の3分の1に達する場合、合併に関わる企業のいずれかの市場占有率が全体の4分の1である場合、または前会計年度の売り上げが公平交易法の主管機関である行政院公平交易委員会の公告した額を超える場合には、公平交易委員会に合併の申告をしなければならないと定める。

台湾の2大カラオケ業者である「銭櫃」と「好楽迪」は、両社の合併に際し、公平交易法に基づき公平交易委員会に合併の申告をした。この2つの業者が合併すれば、その市場占有率は台湾のカラオケ市場の2分の1を超えることから、申告したものと思われる。

両社の合併の目的は、昨今の世界的不況のため、売り上げが低下しているので、合併によりコストダウンをし、競争力の向上を図ることにある。さらに、両社の合併は、海外への進出においても有益であると考えられている。

「公平交易法」第12条第1項によると、企業の合併の申告に対し、当該合併がもたらす全体の経済利益が競争を制限する不利益よりも大きい場合、公平交易委員会はその合併を禁止してはならないとされている。

今回の「銭櫃」と「好楽迪」の合併申告は、3回目の申告となる。2007年及び2008年においても、合併の申告をしているが、公平交易委員会はこれを却下した。今回の両社の申告に対しても、両社の合併は市場を独占することになり、明らかに消費者の利益に悪影響を及ぼすことから、公平交易法の第12条第1項に基づき、再度、公平交易委員会は合併案を却下した。

「銭櫃」と「好楽迪」はカラオケにおいて市場占有率1位と2位の業者であり、もし両社が合併すれば、台湾のカラオケ市場の市場占有率が2分の1を超えるだけではなく、人口がもっとも多い台北市と台北県の区域の市場占有率が90%を超えることになると予想される。公平交易委員会の見解によれば、両社の合併はカラオケ市場における独占状態を生じさせ、市場の競争メカニズムを害し、消費者の選択を狭める恐れが大いにあるとされている。

企業合併については、合併した企業に対し、一定の条件・負担を課すことで、合併により消費者にもたらされる不利益よりも利益が超えるようにする場合があるが、本件においては、経済利益を確保し、競争の制限により生ずる不利益を超えさせる負担又は条件を付けることが不可能と判断されたため、両社の申告は却下された。

公平な競争環境を保つ責務を持つ公平交易委員会は、不景気を各企業が乗り切る手段として、合併が唯一のものではなく、効率性、独創性の向上により業者がこれを克服することが望ましいと指摘している。


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【執筆担当弁護士】

弁護士 黒田健二 弁護士 尾上由紀 台湾弁護士 蘇逸修