台湾バイオ医薬産業に関する情報

薬物、食品、健康に対する社会の関心が高まる中、世界経済に占めるバイオ産業の割合も増加し続けている。中でもバイオテクノロジーを活用した医薬品の市場規模は拡大の一途を辿っており、その重要性は益々高まっている。台湾でもこれら市場の変化に対応し、薬物や食品の安全性確保に対する社会の要求に応えるため、さらに、この新しい市場で優勢な地位を獲得するため、政策或は法制面において、様々な支援・措置を講じ、この新しい分野へ国内の投資ブームを呼び込もうとしている。

台湾においては、2007年に「バイオ新薬産業発展条例」が施行され、研究開発や人材育成に投じた資金について所定の手続きに従って申請すれば、一定限度内で営利事業所得税の免除が受けられるほか、各種優遇措置を利用することが可能となった。これによりバイオ企業の研究開発活動が活性化され、2009年1月までに20社が「バイオ新薬会社」として認定を受けており、革新的な新薬開発、臨床試験が進められている。

新薬開発は大きなリターンが期待できるが、コストが高く不確実性を伴う。一般的に3億新台湾ドルと10年以上の時間がかかるといわれるが、近年、開発と臨床試験の分担によるコスト抑制などを目的として、海外の新薬開発企業によって、医学分野の研究水準が高く、研究環境も整っている台湾のバイオ関連機関との連携がすすめられている。

一方、2008年、中国及び台湾地区で乳製品の有害物質メラミン混入事件が次々と発覚したこともあり、食品及び薬物に関する管理強化の要請を受け、更に前述したバイオテクノロジー産業にも関連して、これらを統一した体制のもとで管理する機関設立に関する法律案が、2009年5月12日立法院で最終可決され、6月3日に公布された。この「行政院衛生署食品薬物管理局組織法」は、台湾にアメリカ食品医薬局(US Food and Drug Administration, FDA)に相当する機関である「行政院衛生署食品薬物管理局」を設立することによって、複数の機関に分散されていた管理体制を一元化し、食品、医薬品等に関する管理等諸業務を専門的に執り行うことを主な目的としている。

なお、同局は「食品薬物」として化粧品に関する諸業務も管理の対象としているので、注意が必要である。「行政院衛生署食品薬物管理局組織法」第2条に、同局が行う業務範囲が規定されている。

  1. 食品、医薬品、化粧品に関する法令、治験届けの受理、審査、審査承認等に関する事項
  2. 新薬の臨床試験に関する審査及び監督
  3. 食品、医薬品、化粧品の生産管理、輸入承認等に関する事項
  4. 食品、医薬品、化粧品の検査、研究、実験室(非臨床試験の実施に関する規制)の査察認証、リスク管理等に関する事項
  5. 食品、医薬品、化粧品の安全性に関するモニタリング、危害調査等に関する事項
  6. 医薬品の輸出入、販売、審査・考査等に関する事項

また、台湾における7月15日付の新聞報道によると、台湾政府は2010年1月の同局の正式な設立を目標に、8月より準備を開始し、また、初年度の予算は24.5億台湾ドルであり、約505人が配置される予定である。同局の設置により、食品・薬物の安全性、及び国民の健康がより確保されることが期待されている。


*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は、当事務所にご相談ください。

【執筆担当弁護士】

弁護士 黒田健二 弁護士 尾上由紀 台湾弁護士 蘇逸修