台湾労働基準法の「就業規則」に関する規定

「就業規則」とは従業員の各種の行動について、企業が作成し、従業員が遵守する準則をいう。台湾労働基準法第70条の規定によれば、雇用する労働者の人数が30人以上となった場合、使用者は「就業規則」を作成し、事業所の所在する県、市政府に届出を行い、かつ公示しなければならない(注1参照)。第70条によれば、就業時間、休暇、交替、賃金の基準・計算、手当及び賞与、休暇取得、解雇、レイオフ、離職、退職等のような重要な労働契約事項については、いずれも当該就業規則に明確に規定しなければならない。

労働基準法施行細則によれば、元々労働者の人数が30人に満たないが、追加雇用により30人を超えた場合、当該事項の発生後30日以内に就業規則を作成し届出を行わなければならない。県、市政府が就業規則の内容を不適当であると認定した場合、不適当な内容を削除、または修正するよう使用者に対し要求することができる。

就業規則の届出を行った後、使用者は事業所内において公開掲示し(注2参照)、かつ印刷して各労働者に配付しなければならない。また、事業所を数ヶ所有し、かつ各地に分散している場合、使用者は、労働者全員に適用される就業規則を作成することができ、またはある特定の事業所にのみ適用される就業規則を作成することもできる。使用者が上記の届出及び事業所内での掲示の手続きを完了した後、就業規則ははじめて発効する。また、就業規則の内容が法令の強行規定に違反する場合、当該法令に違反する内容は無効である。

就業規則は使用者が一方的に作成した規則であり、使用者と労働者の合意に基づき締結された契約ではない。かつて台湾における日本のメーカーの就業規則において、労働者が規定違反により支払うべき違約金の金額を規定したことがあったが、台湾の労働法令主管機関である行政院労働者委員会は、違約金の金額は使用者と労働者双方が約定すべき事項であり、労働契約において定めなければならず、就業規則に規定すべきではないと認定した。

また、職務上発生した著作物の所有権が、使用者に属するか、労働者に属するかについても就業規則に規定すべきものではなく、使用者・労働者間で契約をもって規定すべきであるとされている。

このほか、労働者の休暇取得及び休暇取得期間中の賃金給付については、台湾行政院労働者委員会が労働基準法第43条の授権に基づき、「労働者休暇取得規則」を制定した。これが各種の休暇取得事由及び期間内の賃金給付の最低基準とされている。

  1. 業務上負傷による病欠
    労働者に労災による病欠が生じた場合、休養期間中に公休を与えなければならない。賃金を通常通り給付しなければならず、また皆勤手当を控除してはならない。
  2. 普通負傷による病欠
    労働者に非労災による病欠が生じたが、入院していない場合、休暇は年間合計30日を超えてはならず、また入院した場合、休暇は2年間以内で1年を超えてはならない。労働者が取得した休暇日数が上記の期間を超え、かつ個人の私用による年間14日間の休暇及び年間の有給休暇も超える場合、「ポスト保留・賃金給付停止」の休職期間に転じることが可能だが、その期間は1年に限定される。
    病欠休暇については、年間30日の範囲を超えない場合、賃金の半額が給付される。年間30日を超えた場合、使用者は賃金を給付しなくてもよい。
  3. 私用による休暇
    私用による休暇は年間14日を超えてはならない。私用による休暇の期間中は賃金を給付しない。
    最後に、上記の休暇及び賃金給付の最低基準に違反した場合、労働基準法第79条に従って、主管機関は処罰を科すことができる。

(注1) 使用者が事業所を他の場所に移転した場合、改めて新しい所在地の主管機関に届出を行わなければならない。

(注2) 台湾の労働法令主管機関である行政院労働者委員会の解釈によれば、会社のホームページにおける掲載も公開掲示の方式として認められる。


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【執筆担当弁護士】

弁護士 黒田健二 弁護士 尾上由紀 台湾弁護士 蘇逸修