台湾「専利法」における動植物の品種の特許取得に関する修正案

台湾の「専利法」は、特許(注1参照)、実用新案(注2参照)、意匠(注3参照)を規定する法律である。
特許の規定について、現行「専利法」第24条では以下のとおり規定されている。

「以下の各号については特許を許可しない。
一、動植物及び動植物を生産する主要な生物学的方法。但し、微生物学的生産方法はこの限りではない。
二、人体又は動物の疾病の診断、治療又は外科手術の方法。
三、公序良俗又は衛生を妨害するもの。」

上記のとおり、現行「専利法」第24条第1項第1号の規定によれば、「特定の動物又は植物の品種」について特許を出願しても許可されない。この規定には、動物又は植物の新種は自然の産物であり人類の発明ではない、という考え方が根底にある。もし特定の動物又は植物について特許権の取得を許可すれば、人類が神の領域に踏み込むことになり、倫理上の問題が生じるのではないかと考えられるためである。

上記の現行「専利法」第24条第1項第1号における「動植物を生産する主要な生物学的方法(essentially biological process)」かどうかは、当該動植物を生産する方法が人為的な科学技術が重要な位置を占めるか否かによって決定される。動植物を生産する当該方法が主に自然現象によって生じ、人為的な科学技術が重要な位置を占めない場合、動植物を生産する当該方法は「主要な生物学的方法」とみなされ、特許は許可されない(注4参照)

しかし、遺伝子に関する科学技術が日進月歩の今日において、生物に関する科学技術産業の発展を促進し、その競争力を高めるために、動植物の品種の出願について発明特許の取得を許可すべきである、という意見もある。

このような意見を踏まえ、行政院は2009年12月3日に「専利法」の修正案を審議し、上記の現行「専利法」第24条第1項第1号を削除した。理由は以下のとおりである。

  1. アメリカ、オーストラリア、韓国等では、動物又は植物について特許の取得を許可している。生物に関する科学技術の発展、及びそれに伴う経済の発展を促すために、特定の動植物の品種について特許の取得を許可すべきである。
  2. 「動植物を生産する主要な生物学的方法」は、人為的な科学技術によるところは少なく、特許が有すべき進歩性を有していないことが多いため、そもそも特許権として許可すべきものではない。よって、台湾専利法第24条第1項第1号で別途規定する必要はない。

今後、当該修正案が台湾の国会(立法院)において可決されれば、特定の動植物の品種について特許権(注5参照)を取得できることになる。台湾で生産される蘭は世界において競争力がある。このため、現行「専利法」第24条の修正が可決されることにより、すでに高い競争力を有する蘭等の生物に関する科学技術の発展が更に向上することが期待される。

行政院はすでに本修正案を立法院の審議にまわしている。知的財産権に関する法令と政策の主管機関である経済部智慧財産局の職員は、1日も早く「専利法」修正案が可決されるよう国会議員に働きかけているといわれている。

 

(注1)台湾では「発明専利」という。

(注2) 台湾では「新型専利」という。

(注3) 台湾では「新式様専利」という。

(注4)例えば、新たな生物を生産するには、異種の生物を交配させる方法がある。異種の生物を交配させ、どのような生物が生まれるかは自然現象によるところが大きいので、「主要な生物学的方法」であるとみなされる。

(注5)台湾の経済部智慧財産局の職員によれば、「修正案が立法院において可決されれば、遺伝子改良の動植物についての特許を出願できる。但し、人のクローンについては特許を取得することはできない。」とのことである。


*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は、当事務所にご相談ください。

【執筆担当弁護士】

弁護士 黒田健二 弁護士 尾上由紀 台湾弁護士 蘇逸修