台湾「証券取引法」の条文改正に関して

台湾の証券取引法は、会社株式、会社債券等の有価証券の募集、発行、売買、及びその監督管理を規制するための法律である。

現行の証券取引法第38条の1の規定によると、台湾の行政院金融監督管理委員会は、会社の監査が必要と思料される場合、会計士、弁護士、エンジニア、又はその他の専門職若しくは専門技術者を指定し、彼らに有価証券を発行する会社の財務、業務状況、及び関連書類、帳簿の監査を行わせ、並びに行政院金融監督管理委員会へ報告書を提出させ、意見を述べさせることができる。

会社財務を健全化し、投資家の利益を保護するため、台湾の行政院は今年4月、証券取引法の改正草案を採択した。この改正草案により改正された証券取引法38条の1によると、有価証券を発行する会社の発行済株式総数の100分の3以上の株式を1年以上引き続いて保有する株主は、ある特定の事項が株主の利益を害すると考えるときは、理由、証拠並びに必要性についての説明を付け、行政院金融監督管理委員会に当該会社の監査の実施を申し立てることができる。

行政院金融監督管理委員会が作成した当初の証券取引法第38条の1の改正草案によれば、会社の発行済株式総数の100分の1以上を保有する株主は上記申立てが可能であったが、行政院の審議後、保有株式数の条件は100分の1から100分の3まで引き上げられた。

このように改正後の証券取引法第38条の1の規定によれば、行政院金融監督管理委員会が自らの職権で、専門人員を指定して有価証券を発行する会社の財務、業務状況を監査させることができる以外に、当該会社の100分の3以上の株式を保有する株主も、法定の条件を満たせば、行政院金融監督管理委員会に有価証券を発行する会社の財務、業務状況について監査を申し立てることができることになる。

中小企業の100分の3の株式を保有することは、大企業の100分の3の株式を保有することに比べて比較的簡単である。それゆえ、この改正草案が台湾の立法院で可決されれば、株主の申立てにより行政院金融監督管理委員会の監査を受けることになる企業は中小企業に集中し、他方、多数の大衆に影響を及ぼす大企業が改正草案による影響を受けることは、比較的少ないと考えられる。また、企業経営者のなかには、ライバル会社が100分の3の自社株式を保有したことを口実に、行政院金融監督管理委員会に監査を申立て、企業の営業秘密を取得するかもしれない、と危惧する者もいるようである。

改正案が台湾の立法院で可決されれば、行政院金融監督管理委員会による会社の業務状況、財務の監査にかかる業務量が、大幅に増加する可能性があると指摘されている。

行政院は、上記の証券取引法改正草案を採択した後、その草案を審議のため台湾の立法院へ提出する予定である。

上記の改正のほか、現行の証券取引法第174条の1第2項の改正が試みられていた。

すなわち、同項は、有価証券を発行する会社の董事(注1参照)、監査役、支配人または被雇用者が、自ら行った有償行為について、会社の権利を害することを行為時に明らかに知っており、且つ受益者も受益時にその旨を明らかに知っていた場合は、当該会社は、裁判所に当該有償行為の取消しを申し立てることができると規定しているが、行政院金融監督管理委員会は、同項を改正し、有害な有償行為の取消しを裁判所へ申し立てることができる権利を、会社の少数株主にも持たせようと考えていた。

しかし、行政院は、取引安全の保護を理由に、証券取引法第174条の1第2項の改正案を採択しなかった。

(注1)日本における取締役に相当する。


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【執筆担当弁護士】

弁護士 黒田健二 弁護士 尾上由紀 台湾弁護士 蘇逸修