台湾の「債務整理法」草案について

台湾の会社法によれば、会社が明らかに債務超過の状態にある場合、「有限会社」(有限公司)は、董事が裁判所に破産宣告を申し立てなければならず、「株式会社」(股份有限公司)も、裁判所に会社再建を申し立てられる条件を満たす場合を除き、董事会が裁判所に破産宣告を申し立てなければならない。

裁判所が破産宣告する際の手続は台湾の「破産法」に従って行われるが、現行の「破産法」の内容は現在の台湾社会の情勢に合致しないものになっていると考えられているため、台湾の司法院は、現行の「破産法」に代わって破産手続を規律する法律として「債務整理法」草案を作成した。

会社破産時における会社責任者の責任を重くし、会社債権者がより多くの弁済を得られるよう、司法院の「債務整理法」(注1参照)草案第174条第1項では、以下の通り規定されている。

法人が破産宣告を受けた場合、破産債権者が破産手続により受ける弁済額がその債権額の20%に達しない部分については、法人の董事全員が連帯して賠償する責任を負う。董事が履行しない場合、破産管財人又は債権者は金額を確定する裁定を下すよう裁判所に申し立てることができ、裁判所は董事の財産に対し強制執行をした上、全債権者に分配する。但し、董事がその職務執行に故意又は重大な過失がないことを証明した場合はこの限りではない。

「債務整理法」草案が立法院で可決され、正式な法律となった場合には、同法第174条第1項により、会社の破産宣告後に会社債権者が破産手続により受ける弁済額がその債権額の20%に達しない部分については、同社の董事全員が連帯して賠償する責任を負わなければならず、董事が免責を主張しようとするときは、その職務執行に故意又は重大な過失がないことを証明しなければならない。

司法院が「債務整理法」第174条第1項を規定しようとする目的は、会社の董事の責任を重くして、会社債権者の権利を保護することにある。しかしながら、この条項の内容は台湾の商工業団体の強い反発を受けている。台湾の商工業団体が懸念しているのは、「債務整理法」草案が立法院で可決されると、同法第174条第1項により、今後、会社の董事が将来的に多大な賠償責任を負わされる恐れがあるためにリスクを伴う投資行為を嫌がり、それによって、経済の発展が停滞する恐れがあることである。

また、台湾の商工業団体は、台湾の会社法には「有限会社」又は「株式会社」の株主はその出資額又はその購入した株式を限度として会社に対し責任を負うという規定があるため、董事の役職にある大株主に「債務整理法」草案第174条第1項の責任を負わせる場合には、会社法の規定に抵触することになると考えている。

台湾の商工業団体のこのような見解について、台湾の経済部の職員によれば、「債務整理法」草案第174条第1項は債権者保護のために設けられる特別規定であり、会社法の規定に優先されるべきであるため、「債務整理法」草案第174条第1項の規定が会社法に抵触するという問題は生じないとのことである。

実際、台湾の会社法は、有限会社又は株式会社の「株主」がその出資額又は購入した株式を限度として会社に対して責任を負う旨を規定しているにすぎず、会社の実際の経営者である「董事」の責任負担を重くする法律を国会が別途制定することはできないとする趣旨ではない。

しかしながら、「債務整理法」草案第174条第1項が商工業団体の強い反発を受けているため、「債務整理法」の内容は現在、台湾の法律改正の焦点の一つとなっている。

(注1)中国語名は「債務清理法」。


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【執筆担当弁護士】

弁護士 黒田健二 弁護士 尾上由紀 台湾弁護士 蘇逸修