新興産業における外国企業による投資規制の可能性

2012年6月下旬、台湾の与党(中国国民党)の立法委員は外国人投資条例の改正案を国会に提出した。この改正案によれば、今後、外国企業が特定の産業における台湾企業に投資する場合、当該出資が経営権の取得を目的とするものであれば、事前に主管機関の審査、許可を受ける必要があるとされている。

この改正案は、台湾最大のオンラインゲーム代理販売会社である「遊戯橘子(gamania)」と、韓国最大のオンラインゲーム会社である「NEXON」との間の経営権争奪紛争に起因するものである。

NEXONはgamaniaの顧客であり、gamaniaはNEXONの開発したオンラインゲームを代理販売している。NEXONはまたgamaniaの株主でもある。2007年にNEXONはgamaniaの約10%の株式を保有していたが、徐々に出資割合を引き上げ、2011年には約21%の株式を保有するに至った。さらに、2012年4月及び5月にNEXONは市場において積極的にgamaniaの株式の取得を進め、その持株比率は34%に達した。

これはgamaniaの董事長である劉柏園氏の10%の持分及び他の大株主の持分を大きく上回っており、gamaniaの経営権は大きな脅威を受けることになった。gamaniaは台湾のゲーム産業において最大規模の上場会社であり(2011年の売上額は約210億円)、ゲーム業界において指標的な地位を有している。そのため、このようなgamaniaでさえ経営権を外国企業に取得されてしまうと、台湾のほかの中小ゲーム会社は容易に外国企業に合併・買収されてしまうおそれがある。

新興産業を発展させるという台湾政府の目標のもと、ゲーム産業は長年にわたって台湾政府からサポート及び補助を受けているが、外国企業に合併・買収されると、この目標は水泡に帰してしまうことになる。そのため、NEXONがgamaniaの株式を取得する行為は、台湾メディア及び世論の大きな注目を浴び、かつ論争を呼ぶこととなった。

その結果、外国の企業による台湾企業の合併・買収から、台湾の新興産業を保護するための対策を講じるべきとする声が大きくなったため、外国人投資条例の改正案が提出されることとなったのである。

本改正案は可決される可能性が高いとされているが、可決された場合、外国の出資者が特定の新興産業に対し、経営権の取得を前提として投資する場合、必ず主管機関に申請しなければならないことになる。特定の新興産業に何が含まれるのか、並びにどの機関が審査を行うか等の詳細な部分については、投資の業種の種類及び管理規則・規範を別途制定する権限が付与されている台湾行政院が定めるとされている。


*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は、当事務所にご相談ください。

【執筆担当弁護士】

弁護士 黒田健二 弁護士 尾上由紀 台湾弁護士 蘇逸修