営業秘密に関する刑事責任の厳格化等

10月上旬、台湾の経済部知的財産権局は、営業秘密漏洩の刑事責任を追加し、違法者には最高で5年間の有期懲役を科することができることを盛り込んだ、営業秘密法の改正案を作成したと発表した。

台湾では、友達光電股份有限公司(AU Optronics Corp.)の開発者や技術者が離職後に、友達社の「AMOLED技術」等の重要文書を中国大陸の会社に漏洩したとの疑いで、友達社が調査局に告発を行い、被告発者が台湾に戻った後、刑法の「コンピューター設備を利用した、商工上の秘密の漏洩」等の罪の嫌疑で、調査局に逮捕される事件が発生した。

しかしながら、上記刑法の「コンピューター設備を利用した、商工上の秘密の漏洩」の最高法定刑は1年半に過ぎないため、抑止効果は十分ではなく、しかも、企業が「従業員が会社の営業秘密を漏洩していること」を証明するための挙証はかなり難しいため、民事上の責任を問うことも簡単ではない。

そこで、企業の営業秘密に対する保護を強化するため、今回の営業秘密法の改正では以下の点に重点が置かれた。
1.刑事責任を追加し、犯罪の構成要件を明記した。
2.台湾領土外に漏洩した場合は刑が加重された。
3.営業秘密に関する民事裁判において、訴訟促進のため具体的に挙証・答弁しなければならない義務を被告に課した。

具体的には、通常の漏洩の場合、5年以下の有期懲役が科され、また5万~1000万新台湾ドルの罰金が併科されることが可能になった。さらに台湾領土外に営業秘密を漏洩した場合、上記2.に該当し(たとえば、前述の友達社の秘密漏洩事件がこれに該当するものと考えられる)、6ヶ月以上5年以下の有期懲役が科され、また50万~5000万新台湾ドルの罰金が併科されることが可能になった。

また、企業が営業秘密侵害行為の証拠を取得しがたい点について、今回の法改正では、営業秘密に関する民事裁判において、営業秘密が侵害を受けている又は侵害を受ける恐れがあると原告が主張している事実について、被告が具体的に答弁しなければならない義務を追加し、もし正当な理由なく期限を経過しても答弁せず、又は答弁が具体的ではない場合、裁判所は両当事者間の挙証責任を公平なものとするため、事情を斟酌の上、原告が主張した内容を真実であると認定することができるとされている。

上記営業秘密法改正案は現在すでに台湾の行政院会議において可決されており、今後、立法院に送られ、審議を経て可決された上で実施される予定である。


*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は、当事務所にご相談ください。

【執筆担当弁護士】

弁護士 黒田健二 弁護士 尾上由紀 台湾弁護士 蘇逸修