台湾における食用油事件

2013年10月、大統長基食品廠股份有限公司(以下「大統社」という)が製造する、純度100パーセントを謳っていた、特級初絞オリーブ油(Extra virgin olive oil)について、オリーブオイルの含有量が50パーセントに満たないだけでなく、人体に有害な染色用の銅クロロフィル(Copper Chlorophyll)が添加されているとの指摘を受け、摘発された。

彰化地方法院検察署は同月16日、彰化衛生局の職員とともに、大統社に対して捜索を行い、数千瓶の食用油を押収した。

衛生局の検査結果から、大統社はオリーブ油の成分を偽っただけでなく、唐辛子油にも唐辛子が含まれておらず、落花生油にも落花生が含まれていない(唐辛子、落花生の香料で風味をつけたのみ)ことや、純度100パーセントを謳っていた苦茶油は20パーセントの苦茶油とその他の安価な油を混合して製造されたことが判明し、およそ9割の食用油の成分表示に偽りがあった。

司法及び衛生機関がさらにその他の食用油製造会社に対して調査を行ったところ、同年11月現在、富味郷社、味全社、泰山社等の企業のいずれにも、食用油の成分表示の偽りや銅クロロフィル等の有害成分の添加という違法事実があったことが、相次いで判明している。

今回の食用油事件が台湾社会の大きな関心を引き起こした主な原因は以下の通りである。

  1. 今回、事件に関与したメーカーは、ほとんどがいずれも製品販売量の大きな、また知名度の高い大企業であり、そのうち、味全社は特に長期にわたって台湾民衆の信頼を受けている上場会社である。
  2. 食用油は生活必需品であるが、銅クロロフィル等の添加物は人体にとって肝硬変等を引き起こす可能性があるため、民衆のパニックを引き起こした。
  3. 事件に関与する多くのメーカーは、いずれも経済部のGMP(Good Manufacturing Practice)を取得する優良メーカーとして認証されているが、このよう深刻な問題が生じることは、政府の照合システムに重大な問題が存在する可能性を示唆している。

食品油の成分の偽りは、主に以下の台湾法規に違反する。

(1)食品衛生管理法
本法第15条第1項によれば、食品又は食品添加物に人体の健康に有害な物質が含まれ、偽物混入又は偽装表示等がある場合、製造、加工、調達、販売等の行為を行ってはならず、違反する場合、同法第44条の規定に基づき、6万新台湾ドル以上1千5百万新台湾ドル以下の罰金が科され、さらに情状が重大な場合、休業、営業停止が命じられ、またその会社、商業、工場の全て又は一部の登記事項が廃止される。また、同法第49条に基づき、行為者は、3年以下の有期懲役、拘留に処し、又は8百万新台湾ドル以下の罰金が科され、若しくは併科される。

(2)刑法
本法第339条第1項の詐欺罪の規定によれば、自己又は第三者の不法な所有とすることを意図して、詐術により人又は第三者をして物を交付させた場合、行為者は、5年以下の有期懲役、拘留に処せられ、または1千万新台湾ドル以下の罰金が科され若しくは併科される。

彰化地方法院検察署は10月下旬、まず、上記の法規に基づき、大統社及び富味郷社の董事長等に対し公訴を提起した。また、11月下旬現在、司法機関はその他のメーカーの不法な行為について調査を継続中である。


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【執筆担当弁護士】

弁護士 黒田健二 弁護士 尾上由紀 台湾弁護士 蘇逸修