外国人を雇用する者の法的責任

台北地方裁判所行政訴訟法廷は、2014年1月29日、13年度簡字第282号判決において、台湾人が外国人を雇用して台湾において就労させる場合には、その外国人の職務の種類、内容、期間および勤務地などはいずれも主管機関の許可を受けるべき事項であり、雇用主は外国人を監督管理する義務と責任を負うと指摘した。

本件の概要は以下の通りである。
甲は、インドネシア国籍のAを台湾で就労させることを適法に申請した。職務の内容は、甲の年少子女の世話などの一般家事代行であった。

しかし、2013年1月、台北市政府労働局が、甲の配偶者である乙の経営する商店において調査を行った際、Aがその商店の中で金銭の受領、釣り銭の支払いなどの顧客応対を行っているのを発見し、Aの職務内容が、当局から許可を受けた職務内容と合致していないと判断し、甲による就業サービス法違反を理由として甲を3万台湾元の罰金に処した。

甲は、これを不服とし、訴願を申し立てたが却下されたため、台北市政府に対し行政訴訟を提起した。

裁判所は審理の結果、次のような理由により、甲の訴えを退けた。

  1. 就業サービス法は、外国人を雇用して台湾で就労させる場合、許可制を採用しているが、その主な目的は、台湾国民の就労権を保障し、かつ社会の秩序を維持することにある。従って、台湾における外国人の職務の種類、内容、期間および勤務地などはいずれも主管機関の許可を受けるべき事項であり、雇用主は外国人を監督管理する義務と責任を負う。
  2. 就業サービス法第57条第3号には、「雇用主は、外国人の招聘・雇用において、次に掲げる状況があってはならない。三、招聘・雇用した外国人を指名・派遣して許可されている職務以外の職務に従事させること。」と規定されている。また、行政院労働者委員会02年7月24日0910205078号文書の解釈によれば、就業サービス法第57条第3号には、雇用主による積極的な指名・派遣行為のほか、雇用主が「明らかに知り、または知りうべきであった」場合において、外国人が許可されている範囲以外の職務に従事することを消極的に容認する場合も含まれる。
  3. 本件において、甲は家事代行を目的として、Aの台湾での就労を申請したのであり、Aが従事できる職務は、この範囲に限られる。Aが乙の商店の中で行っていた顧客応対行為は、明らかに許可されている内容と合致しておらず、また、甲もAのその行為を明らかに知り、または知りうるべきであったのだから、たとえ甲が積極的にAを指名・派遣して商店で就労させていなかったとしても、やはり甲は就業サービス法に違反している。

台湾では、外国人が就労するケースは多々あるが、外国人の実際の職務内容が許可されている内容と合致していない場合には、雇用主が主管機関の処罰を受けることになることに注意が必要である。

また、そもそも外国人は、雇用主が所管機関の許可を得た範囲でしか、職務を行えないことにも注意が必要である。


*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は、当事務所にご相談ください。

【執筆担当弁護士】

弁護士 黒田健二 弁護士 尾上由紀 台湾弁護士 蘇逸修