法人株主による取締役・監査役の派遣に関する制限

2011年12月に、台湾の会社法改正案が台湾の立法院にて可決され、会社法第27条第2項が「行政機関又は法人が株主である場合、その代表者 が取締役又は監査役に選任されることもできる。代表者が複数いる場合、それぞれ選任されることができる。但し、取締役及び監査役に同時に選任され又は担当してはならない。」と改正された。

改正前の会社法では第27条第2項但書の規定がなかったため、たとえば、A社がB社の法人株主である場合、A社は自然人の甲、乙及び丙をA社の代表者としてB社に送り込み、例えば、甲及び乙を取締役、丙を監査役とすることが可能であった。

しかし、改正後の会社法第27条第2項但書によれば、甲、乙及び丙の全員が取締役となるか、または全員が監査役となることは可能であるが、取締役及び監査役に振り分けることは不可能になった。

会社法第27条第2項が改正されたのは、法人株主の複数の代表者が同時に被投資会社の取締役及び監査役として選任される場合、監査役が取締役に対して、公正な監査を行うことを期待し難いためである。

近時、ある台湾企業の間で、会社法第27条第2項に関する紛争があった。当該紛争の概要は以下の通りである。

台湾企業Y社は2013年4月に、株主総会で取締役及び監査役の改選を行い、Y社の法人株主であるA社の代表者の甲及び乙がY社の取締役に選任され、A社の完全子会社であるB社の代表者の丙及び丁がY社の監査役に選任された。

これに対して、Y社の別の株主であるX社は、Y社による取締役及び監査役の改選は実質的に会社法第27条第2項但書に違反しているため、甲、乙、丙及び丁の選任が無効であるとして、高雄地方裁判所に対して、Y社と甲、乙、丙及び丁との委任関係が存在していないことの確認訴訟を提起した。(台湾法では、取締役及び監査役と会社とは、委任関係であるとされている。)

高雄地方裁判所は審理の上、2013年9月、X社の主張を認め、Y社による改選が会社法第27条第2項但書に違反していることを理由に、甲、乙、丙及び丁の選任が無効であるという判決を下した。(高雄地方裁判所2013年訴字第1360号民事判決)

しかし、被告側(Y社など)が控訴した結果、台湾高等裁判所は2014年2月に、2013年上字第326号判決をもって、会社法第27条第2項の但書の規定は非公開株式発行会社の法人株主(本件ではA社)及びその従属会社(完全子会社を含む。本件ではB社)には適用されないため、非公開株式発行会社であるY社による取締役及び監査役の選任は適法であると判断し、上記高雄地方裁判所2013年訴字第1360号民事判決の見解を覆した。

そこで、紛争を避けるために、台湾企業の法人株主となる場合、自社の複数の代表者を台湾企業の取締役及び監査役に同時に就任させず、また、自社の代表者を取締役に就任させる場合、監査役は少なくとも、自社と関係のない第三者から就任させた方が望ましいものと考えられる。


*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は、当事務所にご相談ください。

【執筆担当弁護士】

弁護士 黒田健二 弁護士 尾上由紀 台湾弁護士 蘇逸修