通信ソフトウェアによる育児休職申請の可否

台北高等行政裁判所が2014年9月1日に下した2014年度簡上字第104号判決によれば、無給の育児休職は期間が短くないことを理由に、従業員が育児休職を申請する際には、正式な書面により無給の休職期間の開始・終了日などの事項を詳細に記載しなければならず、口頭又は携帯電話の通信ソフトウェアでなされた申請は適法な申請ではないとされた。

本件の概要は以下の通りである。
甲は2012年から、乙で保母として働いていたが、13年4月に乙の園長に対して、新学期の開始時に、無給の育児休職を申請したい旨を伝えた。
園長は、甲が無給の育児休職の開始・終了日を確定させ、新任の保母への引継ぎを完了させ、かつ書面で申請を提出すればよいと回答した。

その後、甲、乙間に紛争が生じ、甲は前後して携帯電話の通信ソフトウェア「line」及び口頭で、園長に対し無給の育児休職を申請したが、拒否されたため、甲は、乙が男女雇用平等法(中国語:性別工作平等法)第16条及び第21条の規定に違反しているとして、新北市政府労工局に申立てを行った。

新北市政府は調査の上、上記申立ては成立すると判断し、男女雇用平等法第38条に基づき乙を1万台湾元の罰金に処した。乙はこの処分を不服とし、本件行政訴訟を提起した。

台北高等行政裁判所は審理の上、乙の主張を認めた。
主な理由は以下の通りである。
男女雇用平等法第16条には、「被用者は、勤続一年が満了した後、三歳に満たない子女一人につき無給の育児休職を申請することができる」と定められており、同法21条には、「被用者が前七条の規定に基づき請求する場合、雇用主は拒否してはならない。」と定められている。また、雇用主が同法第21条の規定に違反した場合、同法第38条により罰金に処されるとされている。

しかし、無給の育児休職を申請する方法について、無給の育児休職実施規則第2条第1項の規定によれば、「被用者が無給の育児休職を申請する場合、事前に雇用主に書面で提出しなければならない。」とされている。同項が書面で申請しなければならないと定めているのは、無給の育児休職は期間が長いためであり、正式な書面により無給の育児休職の開始・終了日、連絡方法などの事項を詳細に記載しない場合には、雇用主の人材配置管理に深刻な影響を与えることになる。

本件において、甲は、口頭、及び「line」により申請しており、いずれも「書面」ではないことから、乙がこのような不適法な申請を拒否することは、違法ではない。

方法の不備により、育児休職の申請が認められない場合があることに注意が必要である。


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【執筆担当弁護士】

弁護士 黒田健二 弁護士 尾上由紀 台湾弁護士 蘇逸修