台風上陸時の出勤要請

今年(2015年)8月7日から8月9日の間、強い台風13号(ソウデロア)が台湾に上陸し、甚大な被害をもたらした。台風の勢力がもっとも強かった8月8日には、台湾の県・市の公的機関及び民間企業の大部分は出勤停止の措置を取った。その一方で、一部の業種、特に百貨店、飲食店、映画館などのサービス業に従事する労働者は、台風の日にも出勤した。

労働者が悪天候の中、出勤し顧客にサービスを提供することは、もちろん敬意を抱かせることではあるが、会社が所在する県・市の政府が出勤停止を宣言した場合に、使用者はなお、労働者に出勤を要求することができるのだろうか。また、労働者は出勤を拒否することができるのだろうか。

「自然災害発生時の事業組織における労働者の出勤管理および賃金給付の要点」第6点においては、次のとおり規定されている。

自然災害の発生時(後)、下記のいずれかに該当する場合、使用者は、無断欠勤、遅刻とみなしまたは私用休暇もしくはその他の種類の休暇として処理するよう労働者を強制してはならず、また、労働者に業務の補填実施を強制し、未出勤分を皆勤手当から差し引き、解雇し、またはそのほかの不利な処分を行ってはならない。

  1. 労働者の勤務地における管轄区域の首長が、「自然災害における出勤および登校停止作業規則」(以下「作業規則」という)の規定に基づき出勤停止を通達したために、労働者が出勤しなかった場合。
  2. 労働者の勤務地における管轄区域の首長は、作業規則の規定に基づき出勤停止を通達してはいないが、労働者が、台風、洪水、地震などの要因により交通に支障が生じたために、遅刻しまたは出勤できなかった場合。
  3. 労働者の勤務地における管轄区域の首長は、作業規則の規定に基づき出勤停止を通達してはいないが、その居住地域またはその通常の出勤(退勤)時に必ず経由しなければならない地域における当該管轄区域の首長が、作業規則の規定に基づき出勤停止を通達したために、出勤しなかった場合。

上記の規定によれば、基本的には、会社の所在地、通勤途中で必ず経由しなければならない地域、または労働者の居住地が所在する県・市の政府が出勤停止を宣言した場合には、台風の日に出勤することを使用者が要求したとしても、労働者は出勤しなくてもよい。このような場合に、使用者が出勤しなかった労働者に対し、未出勤分を皆勤手当から差し引いた場合、労働基準法第22条に対する違反となり、同法第79条に基づき、2万台湾元以上30万台湾元以下の過料が課される。

台湾には毎年複数の台風が上陸するので、上記規定には特に注意が必要である。
また、営業上の理由等により、台風の日の出勤を従業員に要請する必要性がある場合、紛争が生じないよう、出勤手当の追加支給などの方法で柔軟に処理することをお勧めする。


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【執筆担当弁護士】

弁護士 黒田健二 弁護士 尾上由紀 台湾弁護士 蘇逸修