紛争解決条項に関する注意点

日本企業から依頼を受け、紛争事件を手がけることはよくある。これらの経験に基づき、台湾企業との契約を締結する場合の、紛争解決条項に関する参考事例を以下の通り紹介する。

日本企業A社は、台湾のB社を台湾におけるA社製品の独占的販売代理店としてB社と代理店契約を締結し、B社は台湾においてA社製品を独占的に販売していた。

その後、B社による販売状況が悪くなり、またB社はA社が指示する販売戦略などに従わなかったため、A社はB社との代理店契約を終了し、台湾で新しい代理店と代理店契約を締結した。

A社・B社間の代理店契約の終了後、B社は大幅な安値でA社製品の在庫品を販売し、新しい代理店の販売に影響を与えていた。また、B社はA社の商標を引き続き使用していた。

そこで、A社は、B社の行為の差止めを求めて、台湾で訴訟を提起することを検討していたが、A社・B社間の代理店契約によれば、「本取引により生じた双方間の紛争は、日本で仲裁を申し立てて解決するものとする。」と規定されていた。

本件における、紛争解決条項に関する主な問題点は二つある。

  1. 台湾の仲裁法第4条によれば、当事者間に仲裁条項が存在する場合、いずれかの当事者が仲裁を申し立てずに直接訴訟を提起し、他方当事者が異議申立て(即ち、「妨訴抗弁」)を行うときは、裁判所は審理を停止の上、一定の期間内に仲裁を申し立てるよう訴訟提起当事者に命じなければならず、訴訟提起当事者がこれを遵守しない場合であっても、裁判所は審理を継続することができず、直接に訴えを却下しなければならない。
  2. 日本の仲裁で有利な仲裁判断を勝ち取ったとしても、日本の仲裁判断は台湾の裁判所の認可を得た後でなければ、台湾の企業に対して強制執行を行うことができないため、紛争解決に時間がかかるおそれがある。
    これらの問題により、代理店契約における紛争解決条項が、A社が台湾においてB社に法的措置を講じることの障壁となってしまった。なお、上記の事例では、台湾の裁判所に仮処分を申請する方法により、B社による行為を差し止め、本件紛争は解決している。

以上を踏まえ、台湾企業との契約における紛争解決条項は、事案に応じて、日本又は台湾で裁判又は仲裁を行う場合の難易度、判決又は仲裁判断の日本又は台湾における執行の難易度を考慮して、決定すべきである。


*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は、当事務所にご相談ください。

【執筆担当弁護士】

弁護士 黒田健二 弁護士 尾上由紀 台湾弁護士 蘇逸修