台湾における仮差押えについて

65年の歴史を有し、2千人近くの従業員を擁するトランスアジア航空運輸股份有限公司(以下「トランスアジア航空」という)は経営不振により財務状況が悪化したため、2016年11月末に予告なく解散を宣言し、台湾の社会に大きな衝撃を与えた。

メディアの報道によれば、トランスアジア航空の債権者である複数の銀行は、その債権を回収するため、トランスアジア航空の所有する飛行機等の現存財産に対し仮差押え手続きを行っているところである。

仮差押えとは、債務者の財産を一定期間差し押さえ、且つその処分を禁止するものであり、法律上の根拠は民事訴訟法第522条第1項(債権者は金銭請求又は金銭請求に変更可能な請求について強制執行を保全しようとする場合、仮差押えを申請することができる)である。

仮差押えの主な機能は、債務者による財産の隠匿・散逸の防止である。
債権者が訴訟により、債務者に債務の弁済を請求する場合、訴訟提起から最終判決の確定まで、通常、一年から数年かかるため、債権者は確定勝訴判決を得るまで債務者の財産に強制執行(差押え、競売等の手続きを含む)を行うことができず、債務者が訴訟手続き終了前にその財産を移転、処分してしまうと、たとえ最終的に債権者が勝訴判決を得たとしても強制執行可能な財産が存在しない全く意味のない勝訴判決になってしまうことから、仮差押えにより債権者は訴訟手続き終了前に事前に債務者による財産の処分の禁止を求めるのである。

裁判所に仮差押えを申請するときには基本的に以下の二つの要件に適合していなければならない。

    1. 債権者は、仮差押えが執行されない場合には、以後、強制執行が不能となる恐れ又は執行が極めて困難となる恐れが存在することを釈明しなければならない。この点について、実務においては、通常、債務者が財産を隠匿するか否か又は財産を処分中であるか否かという事実等が判断の根拠となる。
    2. 債権者は担保金を提供しなければならない。担保金の金額は裁判官の裁量によって決まり、通常は債権額の3分の1である。

但し、実務上、仮差押えの許可率は20%未満であり、しかも裁判官の許可を得られるか否かは、申請者(弁護士)の能力・経験と関係している。よって、債権回収の問題については、十分な能力、経験を有する法律の専門家に相談して最も有効な手段を講じるべきである。


*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は、当事務所にご相談ください。

【執筆担当弁護士】

弁護士 黒田健二 弁護士 尾上由紀 台湾弁護士 蘇逸修