台湾法上の「市場における地位の濫用」について

韓国の公正取引委員会(KFTC)は、2016年12月、携帯電話用チップの大手メーカーであるクアルコムに対し、クアルコムがその携帯電話用チップ市場における独占的な地位を利用して、携帯電話メーカーに対しクアルコムが一方的に規定した条項に従ってロイヤリティーを支払わせたことを理由として、1.03 兆ウォン(約 8.65 億米ドル)の罰金を課した。この罰金は韓国史上最も高額な罰金額であったため、この案件はアジア各国で注目を集めた。

台湾の公正取引法(以下「本法」という)にも、独占的な地位を利用について、類似の規定がある。

まず、本法第7条には、「独占企業」が以下の通り定義されている。
(第1項)本法にいう独占とは、事業者が関連市場において無競争状態にあり、又は圧倒的な地位を有し、競争を排除できる能力を有する場合を指す。
(第2項)二つ以上の事業者が、実際上は価格競争を行っていないが、その全体的な対外関係において、前項に規定されている事由を有する場合、独占とみなす。

なお、同法第8条第1項には以下の通り規定されている。
事業者に次の各号に掲げる事由がない場合、前条の独占事業者の認定範囲に入れない。

  • 一、関連市場における一つの事業者の占有率が二分の一に達する。
  • 二、関連市場における二つの事業者の合計占有率が三分の二に達する。
  • 三、関連市場における三つの事業者の合計占有率が四分の三に達する。

次に、本法は上記のような独占企業が、その市場における地位を濫用して市場の自由競争を妨害する行為を禁止している。
例えば、A社が運動靴について70%の市場シェアを有する企業である場合、A社が代理店に対しA社の運動靴しか販売してはならず、B社の運動靴を販売してはならないと要求した場合、このような行為はB社の市場参入を妨害するため、公正取引法が禁ずる行為となる。

また、例えば、国際的な原油価格が50%下落している場合において、ガソリン販売の独占企業であるC社は、コストの低下に応じてガソリンの販売価格を値下げ調整しなければならないが、C社がなお値下げを拒否するのであれば、それは市場における地位を濫用した独占行為であると言える。

独占企業にその市場における地位の濫用行為があった場合、本法第34条に基づき、公正取引委員会は当該企業に対しその行為の停止又は是正を要求することができるほか、行為者を三年以下の有期懲役、拘留に処し又は一億台湾元以下の罰金を課し若しくはこれを併科することができる。

独占禁止法に対する違反行為については、台湾の内外を問わず、近年、処罰額が益々高くなる傾向にある。法律違反となることを避けるため、公正取引法違反の可能性のある何らかの疑いが発生した場合は、法律の専門家に相談することをお勧めする。


*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は、当事務所にご相談ください。

【執筆担当弁護士】

弁護士 黒田健二 弁護士 尾上由紀 台湾弁護士 蘇逸修