バス運転手が事故を起こした場合の使用者の責任について

台湾社会で大きな注目を集めている「蝶恋花旅行会社」の観光バス横転事件について、台湾士林地方検察署は9月4日に捜査を終結し、観光バスの運転手、旅行会社の社長を含むすべての被疑者に対し不起訴処分を下した。当該不起訴処分は非常に大きな論議を呼んでいる。

本案件の概要は次の通りである。今年(2017年)2月、蝶恋花旅行会社の運転手が運転していた乗客43名を乗せた同旅行会社の観光バスが5号高速道路の南港インターチェンジ付近を通ったときに横転したことにより、運転手及び32名の乗客が死亡し、11名の乗客が負傷する大惨事が生じた。

被害者家族は、曲がりくねった道を走る際に運転手がスピードを出しすぎたことが事故を引き起こした主な原因としていたが、当日、旅行会社が運転手に適度な休憩を与えずに連続十数時間働かせたことにより、運転手が過度の疲労で適切に運転することができなくなっていたため、旅行会社にも明らかに責任があるとし、運転手、旅行会社の社長などに対し業務上過失致死罪を問う刑事告訴をした。

検察官による調査の結果、本件観光バスの横転時の速度はその場所の最高速度を大幅に超過した時速98キロメートルに達していたことが判明したため、運転手に過失があることは間違いないが、運転手はすでに死亡したため、検察官は、運転手を法に基づき不起訴処分とした。

また、検察官は使用者の責任について、旅行会社が運転手に与えた勤務は、自動車運輸業管理規則の「1日の自動車運転時間は10時間を超過してはならない」という規定に違反しており、また旅行会社が運転手に短期間内において連続して勤務させたことは労働基準法の規定にも違反しているが、観光バスの横転が運転手の連続勤務または速度超過運転によるものであることを証明する具体的な証拠がないため、「疑わしき」だけでは使用者の責任を認定することができないと判断し、不起訴処分とした。

台湾の裁判実務において、通常、民事事件の裁判官は、犯罪に関連する民事責任について検察官または刑事事件の裁判官の認定結果を基準とする。本件では、検察官がすべての被疑者に対し不起訴処分を与えたため、死亡者の家族または負傷者が民事訴訟により賠償を得られる可能性は基本的に低いと解される。

なお、現在、死亡者の家族が本件の不起訴処分に対し不服を表明したため、高等検察署は再審議の手続を行っている。高等検察署が地方検察署の不起訴処分を認めない場合、当該処分は取り消され、本件は再調査されることになる。


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【執筆担当弁護士】

弁護士 黒田健二 弁護士 尾上由紀 台湾弁護士 蘇逸修