第17回 外為法の改正

近時、外国為替及び外国貿易法、並びに関連政省令・告示が改正され、本年6月7日から全面適用が開始された。

これまでは、投資自由の大原則のもと、指定業種について事前届出、一定の対内直接投資について事後報告が求められてきた。

しかし、安全保障等の観点から、2018年8月に米国で新法が成立し、また2019年3月欧州でもEUの新規制が成立する等、世界的に対応強化の流れとなっている。この流れの中で、日本においても、国の安全等を損なうおそれがある投資に適切に対応すること等を目的として、一連の改正がなされた。

国の安全等を損なうおそれがある投資に適切に対応するという観点からは、主に次の2つの改正がなされている。

I.上場会社の取得時事前届出の閾値の引下げ

II.役員への就任及び指定業種に属する事業の譲渡・廃止について、行為事前届出制度の導入

 

I. 上場会社の取得時事前届出の閾値の引下げ

上場会社の取得時事前届出の閾値については、現行10%とされていたのが1%に引き下げられた。

但し、取得時事前届出には、合わせて以下のような免除制度が設けられた。

1.包括免除

外国の金融機関は、次の基準を遵守すれば、コア業種を含む指定業種に関する株式取得(上限なし)について、事前届出は免除される。

 ①外国投資家自ら又はその密接関係者が役員に就任しない。

 ②指定業種に属する事業の譲渡・廃止を株主総会に自ら提案しない。

 ③指定業種に属する事業に係る非公開の技術情報にアクセスしない。

なお、ここでいう「外国の金融機関」とは、日本において業法に基づき規制・監督を受けている、または外国において日本の業法に準ずる法令に基づき規制・監督を受けている証券会社、銀行、保険会社、運用会社、運用型信託会社、登録投資法人(会社型投資信託等)及び金融商品取引法上の高速取引行為者を意味する。

また、「コア業種」とは、武器、航空機、原子力、宇宙関連、軍事転用可能な汎用品の製造業、サイバーセキュリティ関連(サイバーセキュリティ関連サービス業、重要インフラのために特に設計されたプログラム等の提供に係るサービス業等)、電力業(一般送配電事業者、送電事業者、発電事業者の一部)、ガス業(一般・特定ガス導管事業者、ガス製造事業者、LPガス事業者の一部)、通信業(電気通信事業者の一部)、上水道業(水道事業者の一部、水道用水供給事業者の一部)、鉄道業(鉄道事業者の一部)及び石油業(石油精製業、石油備蓄業、原油・天然ガス鉱業)を意味する。

さらに、「指定業種」とは、コア業種の分野以外のサイバーセキュリティ関連・電力業・ガス業・通信業・上水道業・鉄道業・石油業、熱供給業、放送業、旅客運送、生物学的製剤製造業、警備業、農林水産業、皮革関連、航空運輸及び海運を意味する。

 

2.一般免除

包括免除対象者又は免除を利用できない者を除くすべての投資家は、上記1.①~③の基準を遵守すれば、コア業種以外の指定業種に関する株式取得(上限なし)について、事前届出は免除される。

また、次の上乗せ基準を遵守すれば、コア業種に関する10%未満の株式取得について、事前届出は免除される。

 (i)コア業種に属する事業に関し、取締役会または重要な意思決定権限を有する委員会に自ら参加しない。

 (ii)コア業種に属する事業に関し、取締役会等に期限を付して回答・行動を求めて書面で提案を行わない。

免除利用した場合でも、以下の場合に事後報告が必要となる。

(1)株式取得割合が初めて1%となる場合

(2)株式取得割合が初めて3%となる場合

(3)10%以上の株式取得については、取得の都度(現行と同じ)

過去に外為法で処分を受けた者、国有企業等は、上記の事前届出免除を利用することは出来ないため、原則通り、コア業種・指定業種に関する株式を1%以上取得する際には、事前届出が必要になる。なお、国有企業等は、原則として事前届出免除を利用できないが、国の安全等を損なうおそれのないソブリン・ウェルス・ファンド(SWF)や公的年金基金等については、財務省が個別に審査し、当該SWF等と確認書(MOU)を締結し、認証を付与した場合には、一般免除を利用することが可能となる。

 

II. 役員への就任及び指定業種に属する事業の譲渡・廃止について、行為事前届出制度の導入

外国投資家が、以下の行為を行う場合には、事前届出(行為時事前届出)を行い、審査を経た上で行うことが可能となる。なお、この外国投資家には、取得時事前届出の免除制度を利用し、これらの行為を行わないことを表明した投資家も含まれる。

(1)外国投資家自ら又はその密接関係者が役員に就任することについて、株主総会において同意する行為。なお、自己提案か他者提案かは問わない。

(2)指定業種に属する事業の譲渡・廃止を株主総会に自ら提案し、同意する行為。これは自己提案の場合に限られる。

上記の審査は、国の安全等に関わる技術情報の流出や事業活動の喪失を防ぐという観点から実施され、問題のない行為については、5営業日以内に審査通過が通知される。

※参考資料 財務省2020年4月24日「外国為替及び外国貿易法の関連政省令・告示改正について」


*本記事は、法律に関連する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は当事務所にご相談下さい。

執筆者

弁護士 尾上 由紀