第26回 実質所得者課税の原則と外国子会社合算税制

実質所得者課税の原則とは、所得の帰属者と目される者が外見上の単なる名義人にすぎずその経済的利益を実質的、終局的に取得しない場合、所得帰属の外形的名義に拘ることなく、その経済的利益の実質的享受者をもって所得税法所定の所得の帰属者として租税を負担させるべきとする、税法上の原則である。

また、外国子会社合算税制とは、法人の所得等に対する租税の負担がない又は著しく低い国や地域に設立された会社に所得を留保することで日本における租税の負担を回避しようとする事例に対処して、税負担の実質的な公平を図ることを目的として、外国子会社の所得を居住者の所得の計算上雑所得の額に算入するという制度である。

では、外国子会社合算税制の適用を検討するにあたり、(i)外国子会社の株主が名義上の株主に過ぎず、実質的な株主が別にいると思われる場合、(ii)外国子会社がある会社の名義上の株主となっているが、実質的な株主が外国子会社とは別にいると思われる場合、どのような点を検討すべきか。

1 実質所得者課税の原則の理論

所得税法第12条は、「資産又は事業から生ずる収益の法律上帰属するとみられる者が単なる名義人であって、その収益を享受せず、その者以外の者がその収益を享受する場合には、その収益は、これを享受する者に帰属するものとして、この法律の規定を適用する。」と定め、実質所得者課税の原則を定めている。法人税法第11条も同様に、実質所得者課税の原則を定めている。実質所得者課税の原則は、昭和28年に所得税法に明文規定がおかれる前から、税法上内在する条理として是認されてきた基本的指導理念であるとされている[1]

この実質所得者課税の意義については、大別して、法律的帰属説と経済的帰属説の2説があるとされる。法律的帰属説は、課税物件の法律上(私法上)の帰属につき、その形式と実質とが相違している場合には、実質に即して帰属を判定すべきとする説である。経済的帰属説は、課税物件の法律上(私法上)の帰属と経済上の帰属が相違している場合は、経済上の帰属に即して課税物件の帰属を判定すべきとする説である。納税者の立場から見た法的安定性の確保や税務行政執行上の困難性等の観点から、法律的帰属説が通説とされている[2]

もっとも、法律上(私法上)の真実の権利者と収益の内容・実質を構成する経済的利得を経済的に享受している者とは、実際上はほとんどの場合一致するとする学説もある[3]

通説とされる法律的帰属説が妥当であろう。ただ、法律的帰属説に立つ場合であっても、実質の法律上(私法上)の帰属を判断する場合に、経済的実質を間接事実として考慮することができるであろう。

2 実質の判定基準

現行所得税法は、所得をその源泉ないし性質に応じて、10種類(利子所得、配当所得、不動産所得、給与所得、退職所得、山林所得、譲渡所得、一時所得、雑所得、事業所得)に分類している。かかる分類は、資産性所得(利子・配当・不動産・山林・譲渡所得等)、勤労性所得(給与・退職所得等)、資産勤労結合所得(事業所得)に大別することができる[4]。そして、所得の帰属の判断要素は、所得の種類ごとに整理することが有益と考えられる[5]。例えば、配当所得であれば、株式取得原資の出捐(出資)、配当金の管理処分、取引口座の管理、といった点が、所得の帰属の判断要素とされる。

また、相続税に関する裁判例ではあるが、名義株の帰属をどのように判定すべきかについて、大阪高等裁判所平成12年3月15日判決(原審は大阪地方裁判所平成11年7月16日判決)は、「株式の帰属を認定するにあたり、株式の名義は重要な要素ということはできるが、他人名義を借用して株式を取得することも通常みられることからすれば、株式購入の原資を出捐したか否か、株式売買の意思決定をし、株式を管理運用してその売買益を取得しているか否かもまた右認定の際の重要な要素ということができ、株式の帰属する者の認定は右の各要素とその他、名義人と管理、運用者との関係などを総合考慮してなすべきである。」と判示している。また、東京地方裁判所平成20年10月17日判決(控訴審である東京高等裁判所平成21年4月16日判決で結論を維持)は、「被相続人以外の者の名義である財産が相続開始時において被相続人に帰属するものであったか否かは、当該財産又はその購入原資の出捐者、当該財産の管理及び運用の状況、当該財産から生ずる利益の帰属者、被相続人と当該財産の名義人並びに当該財産の管理及び運用をする者との関係、当該財産の名義人がその名義を有することになった経緯等を総合考慮して判断するのが相当である。」と判示している。これらの裁判例、特に、東京地方裁判所平成20年10月17日判決を見ると、財産の実質帰属が誰かを認定するにあたっては、①財産の購入原資の出捐者、②財産の管理及び運用の状況、③財産から生じる利益の帰属者、④実質所有者と名義人・管理運用者との関係、⑤名義人がその名義を有することとなった経緯、の5つの要素を総合考慮すると考えられる。

3 外国子会社の株主が名義上の株主に過ぎず、実質的な株主が別にいると思われる場合

(1) 外国関係会社等の名義上の株主等と法律上(私法上)の株主等

租税特別措置法では、実質的活動を伴わない外国子会社等を利用する等により日本の税負担を軽減・回避する行為に対処するため、外国子会社等の所得に相当する金額を内国法人や個人の所得とみなして合算し、内国法人や個人に課税している(租税特別措置法第66条の6、同法第40条の4等。外国子会社合算税制)。

外国子会社合算税制の適用にあたっては、外国子会社等の名義上の株主等ではなく法律上(私法上)の株主等に、外国子会社合算税制が適用される。これは、表面的には、租税特別措置法第66条の6に関する通達である措通66の6-2の注意書き[6]等の通達を根拠とする。ただ、これらの通達は、実質所得者課税が税法上内在する基本的指導理念であること[7]、所得税法第12条、法人税法第11条のような明文規定がない租税法であっても実質所得者課税を排斥する明文規定がない場合には実質所得者課税の適用が肯定されていること[8]からすれば、外国子会社等の株主等の判定にあたって実質所得者課税の原則に基づく運用をすべきであることを注意的に規定したものと解されるから、法令上の根拠は、実質所得者課税の原則を定める規定(所得税法第12条又は法人税法第11条)となろう。また、租税特別措置法第40条の4には、措通66の6-2の注意書きのような通達はないが、上記のとおり、実質所得者課税の原則を定める規定(所得税法第12条又は法人税法第11条)を根拠法令として、名義上の株主等ではなく法律上(私法上)の株主等に外国子会社合算税制が適用されると解される。

(2) 名義上の株主等と法律上(私法上)の株主等の判断基準

外国子会社合算税制による所得合算の性格については、課税対象留保金額相当額が内国法人に配当されたものとみなして課税する制度と考える見解と、実質所得者課税の原則を具体化した制度であって、実質所得者課税の原則を定める規定(法人税法第11条)についての所得の帰属に関する特別規定であると考える見解があるとされる[9]。配当所得については、前述のとおり、資産性所得と整理されている。

配当所得については、株主たる地位という法律関係に基づき得られる所得であるから、株主が誰か、すなわち、株式取得原資の出捐者が誰であるかということが重要な判断要素とされる。また、株券の保管や配当金の受領・管理、株式売買についての意思決定、譲渡代金の受領・管理、取引口座の管理(証券会社を通じて取得した株式である場合)などが判断要素となるとされている[10]。また、前述した相続税に関する裁判例を参考に、①財産の購入原資の出捐者、②財産の管理及び運用の状況、③財産から生じる利益の帰属者、④実質所有者と名義人・管理運用者との関係、⑤名義人がその名義を有することとなった経緯、といった要素を総合考慮することも考えられる。

ただ、外国子会社等がいわゆるペーパーカンパニーであることがほとんどであることから、そのままでは判断要素として機能しない点もある。外国子会社の株主等が法律上(私法上)の株主等なのか、名義上の株主等に過ぎないのかは、結局、当事者間の契約の有無や内容、締結までの経緯などを元に、ケースバイケースで判断するほかない。

4 外国子会社がある会社の名義上の株主となっているが、実質的な株主が外国子会社とは別にいると思われる場合

外国子会社合算税制が適用される外国子会社等が名義人となっているある株式について、実質所有者が別にいる場合に、実質所得者課税の原則を適用して、当該株式の譲渡によって発生した損益の当該外国子会社等への帰属を否定することは可能か。

現時点では、外国子会社合算税制が適用される外国子会社等に実質所得者課税の原則の適用があると明示的に判断した最高裁判所判例は見当たらない。しかし、特定外国子会社等の欠損金額につき内国法人の損金額に算入することを否定した最高裁判所平成19年9月28日判決の調査官解説において、「特定外国子会社等の欠損が実質的には内国法人に帰属していると認められる場合にまで、実質所得者課税の原則に基づいて内国法人の損金の額に算入することを認める余地が否定されるのかどうか」という点につき、「本判決は、この問題について明らかにしたものではないとみるのが相当と思われる。」と解説され(664頁から665頁)、また、米国デラウェア州の法律に基づいて設立されたリミテッド・パートナーシップが所得税法第2条1項7号等に定める外国法人に該当すると判断した最高裁判所平成27年7月17日判決の調査官解説の注5において、複数人の出資により構成された組織体の事業により生じた利益又は損失が当該組織体に帰属しない「特段の事情」として、「形式的には組織体が事業を行っている場合であっても、実質的にはその構成員又は第三者に当該事業による損益が帰属すると認められるような場合(このような場合は、所得税法第12条、法人税法第11条の適用が問題となろう。)などが考えられようか。」(370頁)と解説されている。これらの解説からからすると、外国子会社等について実質所得者課税の原則が適用され、外国子会社等が名義上の株主となっている株式の譲渡によって発生した損益の当該外国子会社等への帰属が否定される場合がありうると考えられる。

注意すべきは、実質所得者課税の原則の適用にあたっては、あくまで課税物件(本稿では株式)の法律上の帰属が問題となるという点である。上記最高裁判所平成19年9月28日判決の事例は、外国子会社等の損金を内国の親会社が負担する合意が両者の間でなされていたが、最高裁は、当該合意による損益の付け替えを認めなかった。課税物件の法律上の帰属と離れて損益の帰属を合意したとしても、税務上は認められないということである(匿名組合契約その他の税務上認められる法律関係がある場合はこの限りではない)。

[1] 最高裁判所昭和37年6月29日判決等

[2] 金子宏『租税法』182頁(弘文堂、第23版、2019年)、福田善行『実質所得者課税に関する一考察-所得税における所得の帰属判定を中心に-』税大論叢84号(平成28年)360頁、森下幹夫『「実質所得者課税の原則」に関する一考察-所得の人的帰属認定における経済的アプローチの意義-』岡山大学経済学会雑誌49巻第1号(2017年)24頁

[3] 谷口勢津夫『税法基本講義』253頁及び258頁(弘文堂、第6版、2018年)

[4] 金子宏『租税法』218頁(弘文堂、第23版、2019年)、福田善行『実質所得者課税に関する一考察-所得税における所得の帰属判定を中心に-』税大論叢84号(平成28年)376頁

[5] 福田善行『実質所得者課税に関する一考察-所得税における所得の帰属判定を中心に-』税大論叢84号(平成28年)438頁

[6] 名義株は、その実際の権利者が所有するものとして同条第1項、第6項又は第8項の規定を適用することに留意する。

[7] 最高裁判所昭和37年6月29日判決等

[8] 金子宏ほか編「租税法講座-第2巻 租税実体法-」49頁(帝国地方行政学会、昭和48年)

[9] 最高裁判所平成19年9月28日判決の調査官解説661頁

[10] 福田善行『実質所得者課税に関する一考察-所得税における所得の帰属判定を中心に-』税大論叢84号(平成28年)388頁


*本記事は、法律に関連する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は当事務所にご相談下さい。

執筆者

弁護士 森川 幸