第7回 日本訴訟と台湾

日本で訴訟を提起しようとした際に、台湾所在の台湾人又は台湾法人が被告(以下「台湾被告」という)である場合、勝訴できるかどうかの検討もさることながら、他の検討すべき課題も多い。

1.裁判管轄の有無

日本の裁判所に管轄があるかを検討する必要がある。日本の裁判所に管轄がなければ、訴訟提起しても却下される。契約書に管轄について規定があり、日本国内の裁判所と規定されていれば、日本の裁判所に管轄はあるとの判断ができるであろう(民事訴訟法第3条の7)。契約書がない又は契約書に規定がない場合、国際裁判管轄についての民事訴訟法の規定に従い、日本の裁判所に管轄があるかを検討する。例えば、金銭請求の場合に、差し押さえ対象財産が日本国内にあれば、管轄が認められる(民事訴訟法第3条の3第3号)。

2.送達方法

日本法上、送達は裁判権の行使であり、外国において送達するためには、その根拠として、外国との間に条約、共助取り決めその他の合意がなければならないとされている。しかし、台湾については国交がなく、これらがないので、日本国内において公示送達(民事訴訟法第110条1項3号)によらざるを得ない。通常、公示送達は、他の方法によることのできない場合の最後の手段とされており、通常の送達をしても居所不明で送達不能となり、調査によっても送達先が判明しない等の事情が必要となるが、台湾被告の場合には、「被告の住所が中華民国(台湾)にあるところ、同国と日本との間に国交がなく司法共助の実施ができないので、民事訴訟法第110条1項3号に該当する。」等と記載した公示送達の申立書を訴状とともに提出すれば、公示送達が認められる。台湾被告に対しては、公示送達がなされたことが裁判所から通知される(民事訴訟規則第46条2項第2文)。通知は、実務上、普通郵便で送付される。
この公示送達によらざるを得ないという点が、次の強制執行の可否に関連してくる。

3.強制執行の可否

訴訟提起する際、特に、金銭請求訴訟等では、判決獲得のみで終わるものではなく、判決を獲得したあとの強制執行を視野に入れておく必要がある。金銭請求の場合で、台湾被告の財産が日本国内にある場合、例えば、台湾被告の日本の銀行口座が判明している場合や、台湾被告が日本国内に不動産を所有している場合等は、日本の判決を日本で強制執行すればよいため、訴状が公示送達の方法で送達がなされていても、問題は生じない。

問題は、台湾被告の財産が日本国内になく、国外(台湾)にある場合である。日本の判決は、台湾でそのまま強制執行できず、台湾の裁判所で承認執行の手続きを経る必要がある。台湾民事訴訟法第402条1項2号は、外国判決の承認の要件として、敗訴した被告が応訴したことあるいは訴訟の開始の呼出が、相当な時期に当該外国において適法に送達され、又は台湾との司法共助によって送達されたことを要するものとされている(原文は、「第 402 條 外國法院之確定判決,有下列各款情形之一者,不認其效力:」「二、敗訴之被告未應訴者。但開始訴訟之通知或命令已於相當時期在該國合法送達,或依中華民國法律上之協助送達者,不在此限。」)。そして、台湾民事訴訟法第402条1項2号に関し、台湾の最高裁判所は、外国裁判所が台湾にいる被告に対して訴訟手続きの開始の通知又は命令を送達するときは、送達というものは国の司法主権を行使するものであるため、外国裁判所が職権で送達を行うべきでもなく、原告弁護士が郵送又は直接交付で送達を行うべきでもなく、台湾の「外国裁判所委託事件協力法」や「司法互助事件処理手続」等の規定に基づく台湾の法院を通じての協力送達によるべきであるとした(最高法院100(2011)年1月13日判決、100年度台上字第42号)。かかる判断を前提とすると、台湾被告に対して日本の裁判所が公示送達で訴状を送達し、台湾被告が応訴せずに敗訴した場合、台湾裁判所において、当該日本判決の承認を受けられない可能性が高く、台湾国内での強制執行も困難と思われる。

参考に、日本訴訟で被告が応訴していれば、当該日本判決を台湾で承認した事例は存在する(台湾高等法院95(2006)年6月13日判決、93(2004)年度重上字第290号。原審である台湾板橋地方法院92年度重訴字第212号は、国際商事法務Vol. 33, No. 9(2005)で紹介されている)。

以上1から3で検討すべき点を検討した結果、日本国内での訴訟を選択することが合理的でなければ、台湾で訴訟提起することを検討する必要がある。


*本記事は、法律に関連する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は当事務所にご相談下さい。

執筆者

弁護士 森川 幸