第12回 当事者は誰か

契約や訴訟の当事者は誰か。
ご依頼があった際、最初に検討すべき問題である。当事者が誰かなど契約書を見れば書いてあるし、分かりきっていると考えがちであるが、実務を通じた体感として、問題となるケースは多い。
特に、海外の会社、非上場会社、中小の会社がからむ取引の場合は、要注意である。
いくつか例を挙げると、日本企業が韓国法人との間で契約を締結し、取引していたはずが、いつの間にか韓国法人が倒産し、法人の元代表者が個人事業主として屋号で事業を継続していたことに気付かずに取引を継続していたことがある。
このケースでは、韓国法人との間で締結された契約の準拠法と管轄条項がいずれも日本であり、依頼者である日本企業にとって有利だったのだが、適用を断念せざるを得なかった。

ある国の企業と、別の国の企業が、全く同一の英文名称を使用しており、日本企業からは、どちらと取引しているかが不明だったケースもある。一方の代表者は他方の代表者と親族であり、いずれも経営者は事実上同一、営業担当者も同一であったが、いずれの国の会社に請求すべきか、判断が困難であった。

また、ある会社が締結した英文契約に関して紛争となったが、当該会社が登記上は香港会社であるにもかかわらず、契約書に香港の記載はなく、前文に「○○ Holdings, a company administrated in Singapore」と規定されていたことがある。このケースでは、当該香港会社が弊所の依頼者であったため苦労はしなかったが、もし、弊所の依頼者が英文契約の他方当事者であり、上記香港会社を相手方として英文契約に関する紛争につき訴訟等をするよう依頼されたのであれば、相手方の特定に苦労したであろう。
日本企業であっても、当事者名を英語で記載して締結された英文契約書などは、契約書上の当事者名(例えば、Kuroda Corporation)が商業登記上の商号(例えば、株式会社黒田)と異なることになる。

このように、契約書(特に英文契約書)に記載された当事者の名称や所在地は、正式なものでない場合がある。
また、別法人(個人)が同じ名称を使用していることもある。紛争となってからでは確認できないこともあり得るため、取引開始時の登記の確認を徹底し、継続的なモニタリングを行うことが重要である。
契約書を作成する場合は、仮に英語で当事者名を表記するにしても、どこか契約書内に商号の原文と所在地とを正確に記載し、当事者を特定できるようにしておくべきである。

日本国内の会社であれば、商業登記を確認すれば、正確な商号、本店、代表取締役を含む役員が確認できる。
また、いくつかの国、地域では、無料で企業の情報が閲覧できる(URLはいずれも本記事の執筆時点)。

中国:各地の工商局(中文。無料)
北京 http://qyxy.baic.gov.cn/
上海 http://sh.gsxt.gov.cn/index.html

台湾:經濟部商業司(中文。無料)
https://findbiz.nat.gov.tw/fts/query/QueryBar/queryInit.do

香港:公司註冊處(中文、英文。無料、役員情報等は有料)
https://www.icris.cr.gov.hk/csci/

日本:一般財団法人民事法務協会(有料)
http://www1.touki.or.jp/

また、日本企業であれば、帝国データバンク、東京商工リサーチといった信用調査会社から取得する企業情報のレポートでも、正確な情報がほぼ把握できる。
海外の企業であれば、ダンアンドブラッドストリート(D&B)が作成するレポート、「ダンレポート」を取得できる。


*本記事は、法律に関連する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は当事務所にご相談下さい。

執筆者

弁護士 森川 幸