第271回 未婚と偽って交際した場合の賠償義務

2018年12月11日、台南地方法院は、既婚者の身分を隠して被害女性と交際した男に対し、20万台湾元(約72万円)の損害賠償を支払うよう判示しました。当該事案の概要は以下の通りです。

A女は16年7月、李という名字のB男との交際を開始しました。交際当初、結婚を前提に交際したいので、交際対象は独身の必要があると明確に伝えたのに対し、B男は配偶者欄が空白の古い身分証の写真をLINEで送って独身と思い込ませました。しかし、18年2月26日、A女はB男とその妻のフェイスブックページを見つけ、2人が婚姻関係にあることに気付きました。このため、B男は悪意に基づいて既婚者である事実を隠し、青春の歳月を無駄にさせたとして30万元の損害賠償を請求しました。

自己決定権を侵害、賠償義務あり

当該事案において、既婚の事実を隠して性行為に及んだ場合に賠償義務を負うのかという点について、台南地方法院は以下の通り判示しました。

「民法第195条第1項に規定される『貞操』は、性行為または身体の親密な接触等の行為に対する個人の自己決定権を指す。性行為の相手が既婚か否かは、当該性行為が民事または刑事法秩序において許容されるか否かに関連するため、自己決定権の重要事項に属し、一般的な状況において、既婚の事実を隠し、相手方がこれを知らずに性行為に同意した場合、貞操権を害したものであり、損害賠償を請求することができる」。

また、賠償額に関して、台湾最高法院の判断(47年度台上字第1221号)と同様に、民法第195条第1項の「相当の金額」は、実際の加害状況、人格権への影響が重大か、および被害者の身分・地位と加害者の経済状況等から判断しなければならないと指摘しました。

そして、本件では、交際期間が2年近くの長期にわたる点や、A女とB男の学歴や月収等(両者共に大卒で月収約4万元)一切の事情を考慮した上で、A女の請求を20万元の範囲で認めました。

単身赴任をしている男性駐在員が台湾人女性と交際しているといった話を耳にすることがありますが、そのような行為には、刑法上の姦通(かんつう)罪の成立、妻からの離婚請求、慰謝料請求等のリスクの他に、既婚の身分を交際相手に隠していた場合は、上記のようなリスクもありますのでご注意ください。


*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は当事務所にご相談下さい。

執筆者紹介

弁護士 福田 優二

大学時代に旅行で訪れて以来、台湾に興味を持ち、台湾に関連する仕事を希望するに至る。 司法修習修了後、高雄市にて短期語学留学。2017年5月より台湾に駐在。 クライアントに最良のリーガルサービスを提供するため、台湾法および台湾ビジネスに熟練すべく日々研鑽を積んでいる。

本記事は、ワイズコンサルティング(威志企管顧問(股)公司)のWEBページ向けに寄稿した連載記事です。