第423回 台湾有事と戒厳令

昨今、日本の報道などにおいて、台湾有事の危険性が高まっているということをよく耳にします。今回は、台湾において戦争などが発生した場合に、どのような非常法が適用されるのかをご紹介させていただきます。

戒厳令の布告

中華民国憲法第39条では、総統は、法に基づき戒厳令を布告できる旨が規定されています。戒厳令の具体的な内容等については、戒厳法に規定されています。

戒厳法第1条第1項によれば、戦争または反乱が発生し、全国または一部の地域に対し、戒厳を施行しなければならない場合、総統は、行政院会議の議決、立法院の承認を経て、戒厳法に基づき戒厳令を布告する、または布告させることができます。

同条第2項によれば、緊急時において、総統は、行政院の要請を経て、戒厳令を布告する、または布告させることができます。ただし、この場合、1カ月以内(立法院の休会期間の場合、再開後直ちに)に立法院に提出し、追認を得る必要があります。

警戒地域と接戦地域

戒厳法第3条によれば、戒厳令の対象地域は2種類に分けられ、①戦争または反乱が発生した際に、その影響を受け、警戒が必要な地区は「警戒地域」、②戦闘時の攻守の地域は、「接戦地域」と呼ばれます。

戒厳法第6条によれば、戒厳令が敷かれている期間中、「警戒地域」内の地方行政官および司法官が軍事に関する事務を処理し、当該地域の最高司令官の指揮を受けなければなりません。

また、戒厳法第7条によれば、「接戦地域」内の地方行政事務および司法事務は当該地域の最高司令官が主管し、その地方行政官および司法官は、当該地域の最高司令官の指揮を受けなければなりません。

司法権の制限

戒厳令下では、司法権も一時的に制限されます。戒厳法第8条によれば、内乱罪や強盗罪など特定の犯罪については、軍事機関が自ら審判を行うことができます。また、戒厳法第9条によれば、戒厳令下の「接戦地域」内に裁判所がない場合または裁判所への交通が遮断されている場合、刑事および民事の案件について、全て当該地域の軍事機関が審判をすることができます。

このように、戒厳令下では、軍事機関により裁判が行われる可能性がありますが、戒厳法第10条によれば、戒厳令下で出された判決については、戒厳令解除の翌日から、平常時の法律に基づき上訴が可能です。

戒厳令の解除

なお、戒厳法第12条によれば、戒厳の情況が終了し、または立法院が総統に戒厳令の解除を要請するよう決議した場合、総統は、直ちに戒厳令の解除を布告しなければならず、その解除の日から、一律に原状が回復されます。


*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は弊事務所にご相談下さい。

執筆者紹介

弁護士 福田 優二

大学時代に旅行で訪れて以来、台湾に興味を持ち、台湾に関連する仕事を希望するに至る。 司法修習修了後、高雄市にて短期語学留学。2017年5月より台湾に駐在。 クライアントに最良のリーガルサービスを提供するため、台湾法および台湾ビジネスに熟練すべく日々研鑽を積んでいる。

本記事は、ワイズコンサルティング(威志企管顧問(股)公司)のWEBページ向けに寄稿した連載記事です。