第441回 人身売買の罪

カンボジアで好条件の仕事があると持ち掛けられて台湾からカンボジアに渡航した台湾人が、カンボジアで身柄を拘束され、監禁、暴行、人身売買などの被害に遭ったり、詐欺行為に加担させられたりする事件が多発し、大きな問題となっています。報道によると、カンボジアから帰台した台湾人数人が人身売買などの容疑で逮捕されています。今回は、本件事件の犯人にどのような罪が成立する可能性があるかについてご紹介いたします。

3年以上の懲役

まず、台湾にいる台湾人に対し、カンボジアで好条件の仕事があると持ち掛けて台湾から出国させた行為について、刑法第297条第1項の営利目的で詐術により他人を出国させた罪が成立し得ると考えます。同罪が成立する場合、3年以上10年以下の有期懲役に処され、また、30万台湾元(約137万円)以下の罰金が併科される可能性があります。

次に、カンボジアに渡航した台湾人の人身売買を行った行為について、刑法第296条の1第1項の人身売買罪が成立し得ると考えます。同罪が成立する場合、5年以上の有期懲役に処され、また、50万元以下の罰金を併科される可能性があります。

そして、本件では、暴行、脅迫、監視など、本人の意思に反する方法により人身売買が行われたと思われるため、同条第3項により、刑が2分の1まで加重される可能性があります。なお、人身売買は外国で行われていると思われますが、刑法第5条第9号により、国外犯であっても台湾刑法が適用され、同罪が成立します。

さらに、上記罪のほか、監禁罪、傷害罪、詐欺罪などの罪が成立する可能性があると考えます。

日本は懲役3月以上

日本の刑法第226条の2では、人身売買の売主側と買主側で罪の重さが異なっており、買主の場合、3月以上5年以下の懲役に処され(第1項)、営利、わいせつ、結婚または生命もしくは身体に対する加害の目的がある場合には、1年以上10年以下の懲役に処されます(第3項)。これに対し、売主側は上記目的がない場合でも、1年以上10年以下の懲役に処されます(第4項)。

なお、所在国外に移送する目的で、人を売買した場合、売主も買主も2年以上の有期懲役に処されます。

組織的犯罪で重い刑罰

上記のとおり、台湾では、日本と比べて人身売買の罪の刑罰が重く定められています。また、本件は組織的な犯罪で被害者が多く、暴行、監禁なども行われており、さらに、被害者を詐欺行為などの犯罪行為に加担させていたなど悪質性が高いため、犯人には重い刑罰が科される可能性が高いと考えます。


*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は弊事務所にご相談下さい。

執筆者紹介

弁護士 福田 優二

大学時代に旅行で訪れて以来、台湾に興味を持ち、台湾に関連する仕事を希望するに至る。 司法修習修了後、高雄市にて短期語学留学。2017年5月より台湾に駐在。 クライアントに最良のリーガルサービスを提供するため、台湾法および台湾ビジネスに熟練すべく日々研鑽を積んでいる。

本記事は、ワイズコンサルティング(威志企管顧問(股)公司)のWEBページ向けに寄稿した連載記事です。