第445回 メディアを利用した人身攻撃の法的責任

 台湾では間もなく11月に県市長選挙が行われるため、選挙戦の白熱化に伴い、最近、ますます多くの候補者やその支持者が、メディアを通じ、敵陣営の候補者に対して人身攻撃を行っています。中でも、台湾中の注目を集めているのが司会の周氏です。

 周氏は司会を務めるニュース番組の中で、「国民党の台北市長候補者の蒋万安氏は明らかに蒋経国(蒋介石の子)の孫ではないにもかかわらず、蒋氏の血筋を利用して庶民を騙している」と公然と述べました。また、周氏は、同番組内で「候補者の蒋氏の父親も浮気をしていたペテン師である」などとも述べています。

名誉毀損罪で懲役も

 台湾法における、メディアを利用して人身攻撃を行った場合の法的責任については、まず、刑事責任の面で、刑法第309条第1項の公然侮辱罪(公然と人を侮辱した者は、拘留または9000台湾元=約4万円以下の罰金に処する。)、第310条第1項の普通名誉毀損罪(他人の名誉を毀損するに足りることを一般の人々に意図的に拡散させ、指摘または伝達した者は、名誉毀損罪として、1年以下の有期懲役、拘留または1万5000元以下の罰金に処する)および第2項の加重名誉毀損罪(文字、図画を拡散させ前項の罪を犯した者は、2年以下の有期懲役、拘留または3万元以下の罰金に処する)に該当する可能性があります。

 一方、民事責任の面で、民法第195条第1項の権利侵害行為(他人の身体、健康、名誉、自由、信用、プライバシー、貞操を不法に侵害し、またはその他の人格的法益を不法に侵害し、情状が重大な場合、被害者は財産上の損害以外についても相当の金額の賠償を請求することができる。その名誉が侵害された場合も、名誉を回復するのに適切な処分を請求することができる)が成立する可能性があります。

賠償金は広告料?

 メディアの報道によりますと、周氏は何年も前から他の政治家や有名人の名誉をたびたび侵害しているとのことですが、最終的に裁判所が下した判決における賠償額はいずれも非常に低いです。

 例えば、周氏が台湾の前総統・馬英九氏は「政治献金を違法に収受した」と非難したため、馬氏は周氏に対し、「名誉権侵害による民事訴訟」を提起して1000万元の損害賠償を求めました。本件において、最高裁判所は、周氏が確かに事実ではない情報を拡散して馬氏の名誉を毀損したことは認めたものの、最終的に、周氏は180万元を賠償すればよいとの判断を下しました。

 また、周氏が他人の名誉を侵害したケースにおいて、賠償する必要があると裁判所が認めた金額のほとんどが20万~30万元にすぎません。

 台湾では、名誉権が侵害された場合に裁判所が認める賠償額は一貫して高くありません。このため、他人の名誉を毀損した場合に差し出さなければならない代償が収益(例えば、番組司会料金または広告料金)をはるかに下回るのであれば、他人の名誉を侵害するケースが減ることは難しい、と多くの人が考えています。


*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は弊事務所にご相談下さい。

執筆者紹介

台湾弁護士 蘇 逸修

国立台湾大学法律学科、同大学院修士課程法律学科を卒業後、台湾法務部調査局へ入局。数年間にわたり、尾行、捜索などの危険な犯罪調査の任務を経て台湾の 板橋地方検察庁において検察官の職を務める。犯罪調査課、法廷訴訟課、刑事執行課などで検事としての業務経験を積む。専門知識の提供だけではなく、情熱や サービス精神を備え顧客の立場になって考えることのできる弁護士を目指している。

本記事は、ワイズコンサルティング(威志企管顧問(股)公司)のWEBページ向けに寄稿した連載記事です。