第469回 他人の電話番号を無断で公表した場合の刑事責任

台北地方法院(台北地方裁判所)は2023年4月11日、有名な女性芸能人Aが有名なインフルエンサーである女性Bの携帯電話の番号をインターネット上で不当に公表したことにより個人資料保護法(個人情報保護法、以下「本法」)第20条および第41条に違反したと認定し、Aを懲役4月に処しました。A、Bの両名はいずれも台湾において高い知名度を有することから、この判決は台湾メディアに広く報道されました。

当該判決書の記載によれば、AとBは従来仲が悪く、Aが、21年5月9日の深夜0時にフェイスブック(FB)でライブ配信を行った際に、Bの携帯電話の番号の最初の4桁を口にし(台湾の携帯電話番号は10桁)、Bはその場で「私の個人情報を漏らさないで」と抗議しました。

Aは同日午後にも自身のFBで2つの文章を続けて投稿しており、1つ目の文章では「彼女は私が最初の4桁の番号をしゃべったら慌ててわめき出した」と言及し、2つ目の文章では「彼女の今のオーラはこんな色かな?」と記載し、6つのアラビア数字から成るカラー写真を載せました。

本件の審理時、AはBのプライバシーを侵害する意図があったことを否認し、ネットユーザーが2つの文章の意図を勝手に推測したのであり、自分とは関係がないと弁解しました。

しかし裁判官はAの弁解を採用せず、Aはこのような手段を利用して多くのネットユーザーにBの携帯電話の番号を入手させ、Bのところに多くの赤の他人から嫌がらせの電話やメッセージが来るようにしたため、明らかに本法第20条および第41条に違反していると認定しました。

明らかな個人情報漏洩

本法第20条第1項では「非公務機関による個人情報の利用は、第6条第1項に定める情報を除き、収集の特定の目的に必要な範囲内で行わなければならない」と規定しており、第41条では「自らもしくは第三者のために不法な利益を得ることまたは他人の利益を損なうことを企図して、第6条第1項、第15条、第16条、第19条、第20条第1項の規定または対象事業者の中央の主管機関による第21条に基づく国際伝送制限の命令もしくは処分に違反し、他人に損害を与えるに足りる場合、5年以下の懲役に処すものとし、100万台湾元(約440万円)以下の罰金を併科することができる」と規定しています。

本件から分かるように、他人の携帯電話の番号を不当に漏えいした場合には重大な刑事責任が生じますので、特にご注意ください。


*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は弊事務所にご相談下さい。

執筆者紹介

台湾弁護士 蘇 逸修

国立台湾大学法律学科、同大学院修士課程法律学科を卒業後、台湾法務部調査局へ入局。数年間にわたり、尾行、捜索などの危険な犯罪調査の任務を経て台湾の 板橋地方検察庁において検察官の職を務める。犯罪調査課、法廷訴訟課、刑事執行課などで検事としての業務経験を積む。専門知識の提供だけではなく、情熱や サービス精神を備え顧客の立場になって考えることのできる弁護士を目指している。

本記事は、ワイズコンサルティング(威志企管顧問(股)公司)のWEBページ向けに寄稿した連載記事です。